1年前、この画期的な制度に世界は注目していた。しかし、誰もが予測していなかった世界的経済恐慌のあおりを受け、日本も経済不況に陥る事態へと突入。比較的、経済の影響が少ないと言われてきた医療業界も、必ずしも例外ではなく、現在、この制度の目玉である「特定保健指導」の実施率は低迷している。自由診療にまでお金を出せない、それ以前に雇用保持、仕事確保という、生きていくための最低条件の足元がぐらつきはじめていることが一因しており、今後さらに加速していくことが予測される。また、自殺者がさらに増加するという局面もみられ、2006年は32,115名、2007年は33,093名(2008年分は09年6月発表予定)1)と、交通事故死5,025名2)の6.5倍にものぼっている。さらには、医師不足をはじめとする"医療崩壊"の影響が、救急医療やお産といった待ったなしの分野に支障を及ぼす。これらの結果、「予防医療」を後回しにせざるを得なくなっているのが現状だ。
日本人の健康に関係する生活環境について最近のデータをみてみると、諸外国と比べて悪い、もしくは悪化しているのが現状である。たとえば、日本の人口1人当たりのアルコール消費量(純アルコール換算)推移3)は、1977年の5.1リットルから、2003年には6.5リットルと27.5%も増加した。逆に,フランスは16.4リットルから9.3リットルと43.3%減,イタリアが12.1リットルから6.9リットルと43.0%減少と著しい。また、喫煙率が諸外国のなかでも高いことは周知の事実である4)。酒税、たばこ税の増税により対象者を減らし、国の収入を増加させることも必要であろう。
労働環境では、"週当たりの労働時間が50時間以上"の労働者の割合が日本では28.1%5)と、諸外国と比べてもっとも高い。ちなみにフランスは5.7%、ドイツは5.3%である。労働環境に関係してか、2008年世界17カ国で実施された睡眠に関する調査6)によると、日本人の睡眠時間は6.4時間と,調査国の中で最も少ない。
これらの数字を背景に、日本では、糖尿病患者および予備群が年々激増している。個々の生活習慣に起因する生活習慣病は、医学の進歩、医療従事者の努力だけでは、その進行を止められない。2007年に日本糖尿病学会から発表された日本人糖尿病の死因調査(1991〜2000年の10年間、18,385名での検討) 7)によると、糖尿病患者の平均死亡時年齢は男性68.0歳、女性71.6歳で、同時期の日本人一般の平均寿命に比べてそれぞれ9.6歳、13.0歳短命という非常に深刻な結果であった。 前回(1981〜1990年)の調査に比べて、男性で1.5歳、女性で3.2歳長生きできたという結果だったが、同時期に日本人一般でも男性1.7歳、女性2.7歳の長生きが認められており、糖尿病の管理・治療が多くの点で進歩しているにもかかわらず、患者自身の生命予後(長生き)の改善には反映されていないことが明らかになった。 すなわち、医師への他力本願ではなく、自己健康管理が何よりも基本かつ重要であることが、これらの調査からも示されていると言える。しかし、自己管理はやはり難しい。故に、今回の「特定保健指導」のようなサポート制度が重要になってくる。「特定健診」を受けることで糖尿病を発見する、そして「特定保健指導」で健康管理のサポートを受けながらライフスタイルの見直しをする。これが、これからの健康づくりの根幹となる。
肥満は人類の欲望の結果に生じた。おいしいものをたくさん食べる、飲む、汗をかくことなく移動する。その快感を味わってもらおうと多くのモノが開発・提供され、人々に受け入れられてきた。この経済恐慌下で何ができるだろうか。いまだからこそ、再考するよい機会であるかもしれない。
いずれ景気が回復するであろうから、今後、企業は労働者解雇ばかりでなく、これまで培ってきた能力を温存するために人材確保も重要だ。しかし、残業の廃止や賃金の一部カットなどの対策は必要であろう。これを機に、副業を認め、自分の子供やペットを連れて週3時間介護に参画できるなどの仕組みができることを望みたい。生きることの大切さを知ることで、また自殺は人との交流不足も一因となっているため、前述した自殺者も減るものと期待される。
特定保健指導の制度が大きな欠陥を持っているとは思えない。経済状況が好転すれば、必ずや展開されていく医療システムである。今は地道にやっていくしかない。
実行委員会委員 和田高士
(東京慈恵会医科大学
総合健診・予防医学センター教授)
1)「平成19年中における自殺の概要資料」警察庁生活安全局地域課
(平成20年6月)
2)「平成20年中の交通事故の発生状況」警察庁交通局(平成21年2月26日)
3) 国税庁「酒のしおり」World Drink Trend 2005
4) OECD,Health Data 2008
5) Jon C. Messenger, Working Time and Workers' Preferences in Industrialized Countries, 2004
6)Walt Disney Japan,2008
7)糖尿病Vol.50-1,47-61,2007
はじめに
第2回調査・総括(和田高士)
第2回調査・総括(鈴木志保子)
第2回調査・ご意見(自由記述)
第2回調査結果(5)
第2回調査結果(4)
第2回調査結果(3)
第2回調査結果(2)
第2回調査結果(1)
第2回・調査概要・属性
第1回調査・総括 (和田高士)
第1回調査・総括 (鈴木志保子)
第1回調査結果
第1回調査概要・属性 |

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