動脈硬化を起こし、生活習慣病の発症につながるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の状態が小児肥満にみられることは、すでに30年前に報告されていた。そのときの予防、治療はめざましい成果をあげつつある。
小児にこの症状が見つかったのは、大阪府泉大津市の教育委員会が昭和49年から始めた「肥満児検診(現小児生活習慣病検診)」だった。
栄養不足の子供を対象にした33年施行の学校保健法が48年に改正され、「栄養が良すぎる」肥満の子供にも注意を向ける指針が出された。これを受けて学校医の平山和之医師と中瀬吉美医師が検診を提案し、後に大阪大学医学部第二内科(現内分泌代謝内科)の医師らも加わった。
平山医師は「始めた当時は太っている子供を健康優良児と呼び、太るのが健康という考え方があった。保護者に説明しても『なぜいけない』といわれて、肥満が不健康と理解してもらうのが大変だった」と当時を振り返る。
定期健康診断で標準体重を20%以上超える小中学生を選び出し、肩の骨の下部、へその横、太ももなどの皮をつまんで皮下脂肪の厚さを測り、検尿、血圧測定を含む内科検診を行った。
当初の検査では、健康上の問題点として高血圧が認められる程度だった。しかし、51年から肥満度40%を超える小中学生の希望者約100人に血液検査を行い、血糖や中性脂肪、肝機能を調べたところ、その考えが吹き飛んだ。血液中の中性脂肪や肝機能の異常を示す酵素の値が、生活習慣病の成人並みに高い子供が少なからずいたのだ。全国初の症例だった。
中瀬医師は「子供の肝臓に脂肪がたまって脂肪肝になっていた」と語る。平山医師らは「いま、成人のメタボリックシンドロームが問題になっていますが、30年前の肥満の小中学生にもこの傾向があらわれていました」と指摘する。
検診で肥満の症状が見つかった子供らの保護者には講習会を開き、肥満が生活習慣病を招くことを説明した。また、個別の栄養指導を行い、体操の講習会を開くなど改善に向けて動機付けを工夫した。
保護者の協力を得て、子供の体重が一年でどれぐらい減ったか調査したことがある。標準体重からの増加が20-40%の軽度の肥満の子供では標準にもどった子が多かったが、40%以上では、ほとんど変化がなかった。平山医師は「40%以上の高度肥満になる前に、指導を徹底しなければ」と早めの対策の必要性を実感したという。
検診を始めてから20年たった平成6年、二人の医師は、研究グループのリーダーで当時大阪大医学部教授だった松澤佑次・現住友病院長らの依頼で、小中学生時代に肥満と診断された子供たちの追跡調査をした。
昭和50年に中学生だった子供は生活習慣病が気になる年齢。教育委員会を通じて肥満児検診を受けた子供たちを探し出し、現在の身長、体重や健康診断の結果などについて教えてほしいと手紙を出した。
海外の調査では小児肥満者の七割以上が成人になっても肥満といわれる。これに対し、平山医師らの追跡調査では、成人になっても肥満のままだったのが三分の一で、残りの三分の二が肥満から脱却していた。「今も当時のことが頭にあって、食事には気をつけている」と、かつての肥満児童が中瀬医師の診療所を訪れ、しみじみ語ったこともあった。
それでも一般の集団に比べると、いまだ肥満の割合は高い。さらに検診開始当初は、肥満の小中学生が人数で同年齢の5.5%だったが、現在9.5%とほぼ倍増している。小中学生の肥満を減らすために、医療、教育面で抜本的な対策が必要だろう。

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