動脈硬化を起こすメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)。大本の原因である内臓に蓄積した脂肪は、さまざまな症状の引き金になっていることが明らかになってきた。大腸がんなど現代病といわれるほど増加しながら因果関係がはっきりとつかめなかった病気だ。小児にも内臓肥満の兆候が表れている。まさに、メタボリックシンドロームは、飽食社会が及ぼす健康への悪影響を鏡のように映し出し、警鐘を鳴らしている。
日本人に大腸がんが増えている。厚生労働省によると、死因でトップのがんのうち、大腸がんは3位を占める。死亡数は昭和35年には約5,000人だったが、平成15年にはその約8倍の約39,000人に増加した。食事が洋風化し、脂肪の摂取が増えたことなどが原因とされるが、どの時点で食事の改善など気をつければいいか、予防の目安がつかめなかった。
「メタボリックシンドロームが、大腸がんの発症リスクを高めているのではないか」。山形大学医学部の河田純男教授ら研究チームがこのように考えたのは、生活習慣病と同じような割合で急カーブを描いて上昇していたからだ。
そこで着目したのが、大腸がんに進行する恐れがある「大腸腺腫」だった。大腸を覆う粘膜の下から、細胞がキノコのように隆起した病変で、ポリープと呼ばれる。大半が長さ1センチ以下だが、大きくなればがん化することもある。しかし内視鏡などで早期に見つけられる。切り取ってしまい、細胞の様子を見て良性であれば、問題はない。健康診断の普及で報告例が多くなっている。
その大腸腺腫の発症とメタボリックシンドロームの相関関係の研究を河田教授らが始めたのは平成13年だった。3年間かけて大腸腺腫の男女51人(平均59歳)の症例を集めた。同時に、腹囲だけでなく、CT(コンピューター断層撮影法)検査で内臓脂肪の蓄積状況を精密に計測した。
メタボリックシンドロームの診断基準では、内臓脂肪型肥満であることが必須条件だ。腸などの周囲に蓄積した過剰の脂肪から脂肪酸などが遊離して血液に入り、高血圧、高血糖の状態になって動脈硬化を起こすという悪さをする。外部から測った腹囲の目安は、へそ周りが男性85センチ以上、女性90センチ以上。張り付いた内臓脂肪の断面積が100平方センチ以上という警告ラインに相当する。
結果は明らかだった。患者群の内臓脂肪断面積は平均九十九平方センチで、比較するために設定した健常な52人の平均67平方センチを大幅に上回り、大腸腺腫の発症と関連しているという因果関係の「状況証拠」が示された。
河田教授らは実は「傍証」ともいえる重要なデータもつかんでいた。脂肪組織から分泌される「アディポネクチン」という生理活性物質の増減である。
単なるエネルギー蓄積の貯蔵庫と考えられていた脂肪組織が、巨大な内分泌臓器であることは、大阪大学グループが突き止めた成果だが、そこから出されるアディポネクチンは細胞の炎症を抑える「火消し役」の作用がある。ところが、内臓肥満になるとアディポネクチンの分泌が減ってしまうのだ。
このとき、細胞は傷つき、修復を始めるが、その増殖過程では何らかの理由で遺伝子のコピーエラーが起きやすくなり、それが原因で細胞のがん化の恐れが強まる。
「内臓肥満によって全身で炎症状態が起き、しかも持続すると、がんが発症しやすくなると予測できる。炎症が強い潰瘍(かいよう)性大腸炎でもそうした傾向がみられます」
河田教授らが調べた血液一立方センチ当たりのアディポネクチン含量の平均値は、大腸腺腫患者が7マイクログラムと健常者の10.6マイクログラムより低い。見事に予測を補強していた。
「現段階ではアディポネクチン値は、がん発症につながる複数の危険因子のひとつで、今後、大規模な検証が必要です」と河田教授。すでに山形県高畠町で住民3,000人を対象に疫学研究を始めている。
メタボリックシンドロームの研究は、さらに重要な病気の予防の手がかりを明らかにしていく。

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