【第2部】広がるメタボリックシンドロームの影響
  (2) 「動脈硬化進める悪循環」
2006.04.12

 病気の原因は思いがけないところに潜んでおり、症状が進展してからぬっと病相を現すことがある。

 心筋梗塞(こうそく)など生活習慣病につながる動脈硬化を起こすメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は、腸など内臓の周囲に過剰な脂肪が蓄積して起きる。大腸がんになる恐れがある大腸腺腫の場合、「炎症」を消すホルモン(アディポネクチン)が内臓肥満の影響で分泌されなくなったことが、がん化を促進した。

 それでは、「炎症」はなぜ起きるのか。実は、脂肪組織が分泌する物質をみると、アディポネクチン以外は大半が炎症を仕掛ける側の物質なのだ。代表的なのは腫瘍壊死因子としても知られるTNF-αである。

 東京医科歯科大学難治疾患研究所の小川佳宏教授らのグループは、その炎症のメカニズムである「メタボリックシンドロームの悪循環の構図」を解明しつつある。

 主役は、白血球の一種でマクロファージ(大食細胞)と呼ばれる細胞である。この細胞は病原菌など異物が侵入すれば、察知して食べてしまう。免疫を担当する「掃除役」だ。炎症はこの防御反応の際に現れるが、強くなると痛み、腫れ、発熱などの症状を伴う。痛み自体は人体に異常を知らせる重要な機能でもある。

 「マクロファージは、奇妙なことに、バターなど動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸を細菌と同様に異物とみなして排除することがある。なぜだろう」

 肥満にかかわるホルモンの研究を続けていた小川教授はマクロファージの不可解な働きに興味を持ったことから、マウスで動物実験を重ねた。

 小川教授の説明によると、肥満が進行するとともに、体内で炎症を強める悪循環が展開される。肥大化した脂肪組織から、脂肪の構成成分である飽和脂肪酸が出され、それをマクロファージが外敵と認識、排除しようと活性化する。細菌と飽和脂肪酸に共通して構造がよく似た部分があり、誤認するためらしい。勢いづいたマクロファージから出てくるTNF-αが脂肪組織に働きかけ、脂肪の分解を活発にし、さらに飽和脂肪酸を作り出す。

 「マウス実験を繰り返していくと分子レベルで劇的な変化がありました。やはり内臓肥満が引き金なのですね」

 免疫にかかわる細胞が起こす病気の治療はやっかいだ。飽和脂肪酸は血流に乗って移動するので、炎症も全身で発生する。腫れや痛みなど炎症は軽度だけに、隠れた形で進行することも多い。

 「軽度の慢性の炎症状態が患者の体内のあちこちで起き、動脈硬化やがんを起こすリスクの一つになる」と小川教授は指摘する。

 一方で、悪循環のメカニズムが見つかったことにより、創薬など治療の端緒が見えてきた。

 「悪循環のどこかのステップをブロックすれば、全体を止められる。そのターゲットを絞っていきたい」

 もっとも有効な予防法は食事制限や運動量の増加で、過剰な内臓脂肪を減らすことである。そうすれば炎症の火消し役のアディポネクチンの分泌量が格段に増えることもすでにわかっている。

 「内臓脂肪をため込むような肥満になっているので要注意」

 悪循環の構図は、そんなふうに人体が発する警告の一つではないか。小川教授はそう考えている。



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