「世界中で肥満者がTSUNAMI(津波)のような勢いで増えている」。オーストラリア・シドニーで先ごろ開かれた第10回国際肥満学会で、学者らは口々に語った。日本や欧米、オーストラリアで肥満者が急増するとともに、糖尿病、心臓病など生活習慣病が増えている。健康づくりの抜本的な対策が急務という深刻な状況の中で注目されたのが、内臓に蓄積する脂肪が元凶で、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)になるという日本発の考え方だった。
強い日差しに街は輝いていた。2,000年にオリンピックが開催されたオーストラリア最大の都市、シドニー。9月で季節は北半球とは反対の春だが、初夏のように暖かく男女とも薄着である。屈強な体格をしているとはいえ、おなかがぽっこり出ている人が多いのが分かる。
「オーストラリアは肥満者の割合が世界のトップレベルで進行しています。世界の国々が肥満を政治の問題として扱い始めた時期に、この国で学会が開催されることは意義深いと思います」
学会長で政府の肥満・糖尿病対策のブレーンでもあるポール・ジメット国際糖尿病研究所所長は、そう説明した。同国の過体重を含む肥満者は成人男性の3分の2、女性の2分の1に達しようとしている。このような事情を抱える同国で世界の肥満研究者が一堂に会して意見を交わすのは、願ってもないことなのだ。
こうした国際舞台で、冒頭から脚光を浴びたのは日本人だった。学会の最高賞であるヴィレンドルフ賞の受賞記念講演。4年に1度開かれ、30年を超える歴史がある国際学会で、日本人として初めて、この賞を受けたのは日本肥満学会理事長の松澤佑次・住友病院長(大阪大学名誉教授)である。
1980年代から本格化した日本の肥満研究は、欧米の学者から奇異に見られていた。体重200キロを超えるような極度の肥満者が少ないことから、「日本で肥満研究をするのは無理」「研究しても意味がない」とまでいわれた。
そのような日本の肥満者の状況が新たな発展につながった。
健康との関連から見れば、脂肪の蓄積は量的な問題よりも、むしろ脂肪のつき方が重要で、腸の周囲にたまる内臓脂肪が元凶だった。その内臓脂肪は、高血圧や血糖の上昇などが重複するメタボリックシンドロームの症状を起こし、動脈硬化や心筋梗塞(こうそく)など生活習慣病と結びついていった。
さらに、医学の既成概念を変えて脂肪組織が内分泌臓器であることを示し、動脈硬化に関連する多種類のタンパク質を分泌していることも突き止めた。
松澤病院長は、記念講演で朝青龍関ら力士を例に、激しい運動をするスポーツマンに内臓脂肪の蓄積は少なく、メタボリックシンドロームの症状も見られないことを示し会場を沸かせた。
日本流のきめ細かな肥満研究には、海外から熱い視線が注がれていたことは確かだ。
この後、学会に関連してシドニー市内で開かれた会合では、欧米や日本などアジアの学者が集まり、内臓肥満の考え方を取り入れた世界基準の作成に合意した。日本のメタボリックシンドローム診断基準の基礎データになった内臓脂肪をCT(コンピューター断層撮影法)で計測するという精密な手法が採用され、これを使い、各国別にデータをまとめるのだ。
日本を軸にした国際的な肥満研究が動き出した。

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