第10回国際肥満学会の開催地、オーストラリア・シドニーで、会期中に学会関連の会合が開かれた。カナダや日本、シンガポールなどアジア、欧州の肥満研究者10人ほどの協議だったが、その内容は肥満と病気の関係の研究に一歩踏み込んでいた。
テーマは、糖尿病など生活習慣病につながるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)について、世界標準となる診断基準をつくろうというもの。肥満を体形など外側から診断するだけではなく、内部をCT(コンピューター断層撮影)画像や脂肪組織が分泌するホルモンを測って、元凶となる内臓脂肪の影響を調べるという試みだ。日本発の研究成果が採用されたのだ。
会合の結論は、3年がかりで国際的に5,000人(うち日本人600人)のデータを集め、糖尿病や心臓病との関連を調べたうえで、診断基準を作成することだった。より確実な診断基準に向けて国際的な広がりが出てきた。
会合に参加したカナダ・ラバル大のジャン・ポール・デュプレ教授は「世界各国のデータを集めていますが、人種によって脂肪の蓄積の仕方が異なります。日本などアジアの人たちは内臓脂肪がたまりやすく、ウエストがそれほど大きくなくてもかなり蓄積していて、これが原因の2型糖尿病になりやすい」と指摘する。人種や男女の違いにより、脂肪の消化や吸収、蓄積の仕方が異なることが詳細にわかれば、予防や治療に大いに役立つのだ。
メタボリックシンドロームの症状は、さまざまな病因が複合している。内臓肥満により、血液中の中性脂肪の含量、空腹時の血糖値、血圧が上昇し、一方でHDL(善玉)コレステロールが減少するが、これらの数値が軽度でもいくつか重複すると動脈硬化が起こり、心臓病や脳卒中など生活習慣病の危険度が高まるというものだ。欧米では、「死の四重奏」などといわれてきた。
こうした症状の予兆を早期に簡便に察知できれば、心臓病などの発症を未然に防ぐことができる。このため、WHO(世界保健機関)が1999年に診断基準をつくり、その後、米国コレステロール教育プログラム(NCEP)、国際糖尿病連盟(IDF)、そして5年に日本肥満学会など内科系8学会が日本人対象の基準をまとめた。
これらの基準は、後になるほど、腹が出た「りんご型」といわれる内臓肥満の体形を重視していく。WHOはウエストとヒップの比率、体重を身長の2乗で割ったBMI(体格指数)を用いているが、その後の基準はウエスト周囲長を測る。米国人を対象にしたNCEPの基準では男性102センチ以上、女性88センチ以上で、IDF、日本の基準はいずれも日本人については男性85センチ以上、女性90センチ以上としたうえで、必須項目と位置づけた。
日本の基準が重みを増しているのは、CTで撮影し、蓄積した内臓脂肪の断面積を算出して100平方センチ以上は危険と指摘しているからだ。
オーストラリア政府の肥満対策や、アジアなど環太平洋の肥満研究グループのリーダーであるイアン・ケイターソン・シドニー大教授は「世界でも日本の肥満研究は進んでいる。現在、私もデータを集めて研究していますが、血圧に関して欧米の基準のウエスト周囲長は、日本などアジア人には当てはまらない部分があります。また、女性については、更年期前後で体内の脂質代謝に変化が起きるので、2種類の基準が必要ではないか」と話す。
メタボリックシンドロームの診断基準がより精度を高めていく。一方で肥満の予防治療にかかわる基礎医学研究も進んでいる。

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