■高齢で発症する前に診断実施
自営業者ら国民健康保険の40?74歳の加入者2571万人の特定健康診査・保健指導は、医療保険者である市町村に義務づけられる。職場の健康保険組合のような団体ではなく個別に受診するので、どのように健診の受診率や保健指導の実施率を上げるかが大きな課題となる。健診できる医療機関を確保できても、実際に担当する保健師らの人員不足は免れない。
「効率的な医療費削減のための健診・保健指導を行うには、高額医療費の原因になっている病気の兆候がある人を優先して予防対策を取ってみたらよいのでは」。兵庫県尼崎市の保健師、野口緑さんはそう考えた。
野口さんは、心筋梗塞(こうそく)など生活習慣病につながるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の危険因子が多い市職員を選出し、保健指導を徹底することで現役の職員の死亡や長期療養者の削減に成功した。この取り組みは「尼崎モデル」として全国的に注目されていた。
このような予防対策を尼崎市の約18万人の国保加入者に対しても行おうと、野口さんは平成17年に国保の医療費分析に取りかかった。
国保加入者は、自営業者や会社を定年退職した高齢者らが大半を占める。分析結果は市職員と同様で、高額医療費のほとんどが脳卒中や心筋梗塞など循環器系の病気だった。
また、長期にわたって高額な医療費がかかる人工透析を必要とする患者は、平成12年から新たに毎年100人単位で増えていた。透析の医療費は年間1人550万円、100人だと5億5000万円の増加になる。このうち、透析患者の4割は肥満など生活習慣が原因で発症する糖尿病が悪化し腎臓の病気を起こしたケースだった。
「高齢になって病気を発症する前に、メタボリックシンドロームの該当者・予備軍を減らすのが、医療費削減にもっとも効果がある」と野口さんは分析結果をみて確信した。
翌18年度、「ヘルスアップ尼崎戦略」と名付けた住民健診を20歳から40歳代の国保加入者を対象に実施。血圧測定など通常の健診に加え、メタボリックシンドローム診断基準の必須項目である腹囲(男性85センチ以上、女性90センチ以上)を測定。この結果、男性の40歳以上では半数が、30歳代でも4割が基準を超えた。超過グループには全員、糖尿病を早期発見できるブドウ糖負荷試験を行った。
健診結果を基にメタボリックシンドロームの該当者・予備軍には1人30分をかけて個別に保健指導を実施。受診者本人に1日の摂取・消費カロリーを計算してもらった上で、食生活の改善について指導した。
ジョッキ1杯のビールにはコーヒーの砂糖スティック5本分の糖分が入っているが、毎日飲んだらどうなるか。問題点がイメージできるように説明しながら、自分で1日の目標をたててもらった。
一部の人には半年後に評価健診を受けてもらい、前回健診と比較した。その結果、「Hb(ヘモグロビン)A1c(過去約4カ月の平均血糖値)」では87%が「問題あり」から「正常値」に改善した。メタボ退治の戦略がつかめてきた。
20年4月にスタートする健診・保健指導は、40歳から74歳までが対象と人数は多いが、全国統一の標準のプログラムが使われる。データは電子化され、結果は他の地域との比較など総合的に評価できる。野口さんがめざす医療費削減のための効率化についても見通しが立ちやすくなるに違いない。

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