■努力次第で負担軽減
「成果をあげれば、保険料の負担が軽減される」。このような仕組みが、平成20年4月からスタートするメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の予防などを目的とした特定健康診査・特定保健指導に関連して取り入れられる。自動車の損害保険で、加入者が事故を起こさなければ次第に保険料が安くなるのと同じだ。
心筋梗塞など動脈硬化による生活習慣病の発症は、個人が努力して内臓脂肪の蓄積を減らし、メタボリックシンドロームを予防することによって抑え込むことができる。だから、なかなか防ぎようがない結核など感染症と同じように均一に負担するのは不合理との意見があった。むしろ負担に差をつければ、生活習慣病を予防する努力が引き出せるのではないか。これが今回の発想である。
具体的には、特定健診・保健指導の結果、生活習慣病有病者・予備軍の削減などの目標を達成できているかどうかによって、20年度の創設をめざす75歳以上の「後期高齢者医療制度」に医療保険者(市町村、企業の健保組合など)から支払われる支援金が、25年度から最大10%増減される。
東京医科歯科大の川渕孝一教授(医療経済学)は「一種の成果主義を導入したのは画期的で評価できます。今後、74歳以下が加入する公的医療保険でも同種の仕組みを導入すべきでしょう」と評価する。
後期高齢者医療制度の負担割合は、5割が国・都道府県・市町村の公費、1割が高齢者(被保険者、75歳以上)の保険料、残る4割が74歳以下の保険料から拠出される「後期高齢者支援金」だ。この支援金の額が増減されると当然、保険料にもはね返ってくる。
厚生労働省が概算した兵庫県尼崎市の国保加入者のケースをみてみよう。同市では74歳以下の国保加入者数は約15万人。後期高齢者医療制度へ拠出する支援金は約54億円(基準額)だ。基準額通りだと保険料は年間3万5000円だが、目標が達成できずに支援金が10%増えると、各人が支払う保険料は3万8500円となる。逆に目標を達成すると保険料は3万1500円に減額される。年間7000円の違いだ。
「アメとムチ」の使い分けで生活習慣病対策へ誘導する仕掛けについて、厚労省生活習慣病対策室の矢島鉄也室長は「隣の市の国保や他の企業健保組合の保険料と比べて高いか安いかで努力の程度がわかり、それが予防対策を強化するバネになる」と説明する。
ただ、市町村や健保組合など医療保険者ごとに成果が評価されるため、特定の個人の生活習慣病予防の努力が実ったとしても直接、その人の保険料が安くなるわけではない。とくに多数の加入者がいる市町村の国保などではなかなか数字に反映されにくいが、加入者が少ない企業の健保組合では保険料ダウンに結びつく成果が表れやすい。
尼崎市の国保関係者は「まず特定健診の受診率を上げることから作戦を練り始めた」という。
医療制度に詳しい近藤正晃ジェームス・東京大学先端科学技術研究特任准教授は、「国民皆保険制度ができたころの最大の死因は感染症で、互いのリスクを支えあう互助制度が合理的だった。自分で改善できる生活習慣病が主な死因となった現状では、自助の要素を徐々に強化することが重要でしょう」と話している。

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