□大阪市立大学大学院医学研究科講師・絵本正憲氏に聞く
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は、糖尿病の予備群ともとらえられる。内臓脂肪蓄積によって、体での糖の取り込み具合が悪くなるからだが、そうした病態の指標となるホルモン、つまり「インスリン抵抗性」の研究から、典型的な肥満を伴えば、体質的にはすでに糖尿病の人と同じレベルに陥っていることがわかってきた。その半面、ウオーキングなどの有酸素運動を行っただけでも、インスリンの働きが良くなり、インスリンによる糖の取り込み指標が50%も改善するなど、運動が大きく代謝改善に役立つことが明らかになっている。大阪市立大学付属病院生活習慣病・糖尿病センターにも勤務する同大学院医学研究科の絵本正憲講師は「運動効果は肥満対策だけではない。インスリンによる糖の取り込みという体の体質改善にもつながる」と指摘している。(大串英明)
■インスリンによる糖の取り込み 食事療法とあわせ50%も
--- 生活習慣病・糖尿病センターで患者さんを診ているそうですね
これからは単に糖尿病だけでなく、生活習慣病というものが大切になるだろうと、昨年から付属病院内に設けています。基幹の大学病院ということで、糖尿病の患者さんが圧倒的に多いですが、中でもいろいろな病院で治療してもうまくいかない、比較的重症の患者さんが多いですね。
--- 「特定健診・保健指導」が始まるが、その取り組みとして
こういうキャンペーンを含めて健診が始まりますと、いろいろなレベルの方々が引っかかってくると思われます。それこそ基準通りで本当にメタボリックシンドロームだなあという方、いわゆる糖尿病や高脂血症、高血圧などはっきりした病気の段階でなく、軽い症状の一歩手前の方々も、もちろん入ってくるでしょう。しかし、実はれっきとした糖尿病で血糖値も相当悪い人も多分、一定の割合で引っかかってくることが考えられます。健診の目的とは違うかもしれませんが、そういう本来、医療機関を受診すべき方々も拾い上げるというような意味合いも大きいと思いますし、逆にそういう方が単に保健指導で終わってしまうと危ないなという気がします。その辺の見極めをし、治療すべき人は治療するのがいいと思います。
もう一つ、薬物療法が必要でない、生活習慣の改善でフォローできる方々に対しても積極的に受け入れ、例えば看護師、管理栄養士などのスタッフが長年、糖尿病食で培ったカロリー制限など食事療法のノウハウを生かして指導していきたい。
--- 糖尿病のほとんどの患者さんは症状がない
よく見られるケースとして、職場健診の尿糖検査などでは毎年引っかかっていたが、ずっと放置していて、来診されたときには、すでに網膜症などの合併症を発症していたりする。それは本来治療すべき期間を10年近くロスしているわけです。また、ある程度血糖コントロールがされているので治ったと思ってしまい、「治療中断」を繰り返して悪化する。そういう病歴の方も多く結局、自覚症状もないまま日常の生活に困らないことが問題なのですね。
--- 動脈硬化の予防対策では
糖尿病や生活習慣病をターゲットにしている私たちとしては、心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞などを起こさないよう、リスク要因の最たる血圧・コレステロール・血糖の3つを治療目標に懸命に治療に当たっています。血圧とコレステロールに関しては、最近食事療法をベースにしながら薬物療法も非常に進歩して、コントロールしやすくなっています。糖尿病も含めた入院患者さんのデータでもコレステロールの平均値が数年前までは220-240mg/dlぐらいが多かったのですが、最近は、大体200を切るケースが多いのです。
ところが、コントロールが難しいのは血糖値と体重管理なのです。中でも肥満者の管理が難しく、ガイドラインの目標値にはとても及びません。私たちの動脈硬化検査外来を受診した約700人の患者さんの治療前のヘモグロビンA1cは治療目標の6.5%未満が約30%、6.5-8.0%の人が50%もおられます。肥満、体重管理は、そのために入院しても入院中は減量効果があるのですが、退院すると継続的な運動をしなくなり、リバウンドが起きたりして目標に達しないことが多いのです。
--- 減量と血糖値の関係は
減量すれば、もちろん血糖値も良くなってきます。血圧も少し下がるし、中性脂肪は明らかに下がります。結局、内臓脂肪蓄積がもとになって血糖値異常、血圧高値、あるいは中性脂肪高値、低HDL(善玉コレステロール)血症を招くことになります。肥満がメタボリックシンドロームの基礎病態であることは間違いないでしょう。40、50代の方の肥満で、いわゆる内臓脂肪型のメタボリックシンドロームに当てはまりそうな方は、血圧が最初の兆候として上がってくることが多いのですね。血糖に関しては、普通、空腹時血糖値が上がってくる前に、まず食後血糖値が上がってくると考えられています。
--- 「インスリン抵抗性」に関して
私たちはインスリン抵抗性というものをキーワードにずっと臨床研究を続けてきましたが、実はインスリン抵抗性というのは、メタボリックシンドロームの基本病態の一つでもあるのです。しかし、古くから知られているわりには、通常の臨床でとらえることが難しいのです。例えば、肝機能ならGOT検査の数値で、血糖コントロールの状態ならヘモグロビンA1cの判定値を見ればわかりますが、インスリン抵抗性となると、そういう判定手段がなく、結局、正確には人の体の筋肉や脂肪組織がどの程度ブドウ糖を取り込みやすいか見るほかないわけです。
--- どういう方法で
私たちは、グルコースクランプと呼ばれる「人工膵臓(すいぞう)」というものを使い、体の中で安静時にどれくらいブドウ糖が取り込まれやすいか、検査を続けてきたのです。その装置は、片方から少しずつインスリンを点滴し血糖値はどんどん下がっていくので、もう片方からはブドウ糖を点滴して、正常な血糖値を保つのに必要なブドウ糖量を探ります。このブドウ糖の取り込み率は、主に体全体の筋肉と脂肪で消費される量に等しくなり、インスリン抵抗性の指標となります。
十数年、延べ400人の患者さんの協力を得てインスリンの取り込み具合を調べた結果、いわゆる2型糖尿病の方は、健康な人と比べ、インスリンの取り込み具合が半分でした。血糖値が正常な人は、大体平均値9mg/kg/分だったのに対し、糖尿病の人は、およそ4mg/kg/分と少なかった。一方、明らかな糖尿病ではないが、正常との境界域にあるIGT(耐糖能異常)で、なおかつBMI(体格指数)がおよそ30の肥満の方々は、2型糖尿病の人に劣らず、糖の取り込みが少ないことがわかりました。肥満があって「境界型」の人は、実はもう糖尿病と同じくらい悪くなっています。ですから、メタボリックシンドロームの典型的な肥満を伴っていれば、インスリン抵抗性の面からみれば、実は体質的には明らかに糖尿病の人と同じようなレベルに落ちていることがわかってきたのです。

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