脳卒中 早期対策で予防(1/2)
2008.03.16

 □埼玉医科大学神経内科教授・棚橋紀夫氏に聞く 

 ■リスク高める肥満、高血圧、糖尿病

 「脳卒中」は、血管が破れる「脳出血」と、血管が詰まる「脳梗塞(こうそく)」に分けられる。脳出血は減ってきているが、むしろ脳梗塞は、過栄養の時代を反映して年々、増えている。こうした脳卒中と心筋梗塞など動脈硬化を原因とする病気は、がんを抜いて死因の第1位となる。寝たきりの最大の原因でもあり、医療費も莫大(ばくだい)なことから、予防、早期治療が急務なのである。予防医療の時代、来月から、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を基軸に「特定健診・保健指導」がスタートする。(大串英明)

--- 脳卒中にはいろいろな言葉があるようですが

 昔、日本では「脳溢血(いっけつ)」という言葉がありましたが、実は、脳の血管が破れる脳出血のことで今はあまり使われません。もう一つ、「脳軟化」という言葉もありましたが、これは脳梗塞のことで、脳の血管が詰まる状態です。それから、もう一つ怖いのは、「くも膜下出血」です。これは、脳の中のこぶ状の血管が破れる病気で、非常に死亡率が高いことが知られています。

--- 脳出血が減ってきているというのは

 脳出血のほとんどの原因が高血圧で、1960年代に圧倒的に多かったのですが、今は、脳梗塞と逆転し、脳出血の割合は15?20%といわれています。脳血管障害全体で、くも膜下出血▽脳出血▽脳梗塞の割合が1対2対7といわれています。脳出血が減った原因としては、高血圧の管理が行き届き、いい降圧剤が登場してコントロールしやすくなったためと思われます。

--- 脳梗塞が増えたのは

 栄養状態が良くなったことが原因のひとつと考えられます。食生活が豊かになり、脂肪を多く含む食事が多くなると、血管内に徐々に粥(じゅく)腫(アテローム)がたまって血管壁が狭まり、最終的に血管が詰まってしまうのです。これは「アテローム性動脈硬化」と呼ばれ、これが脳梗塞の最大の原因です。さらに最近注目されている原因の一つに、「心房細動」があります。心臓の普段規則正しく打っている脈がでたらめに打つようになりだすと、心臓の血液がよどんで凝固するようになります。そして、これが脳に飛んでいくことで脳梗塞を発症します。心房細動を原因とする脳梗塞は、予期するのが難しく、たちが悪いとも言えるのです。心房細動は自覚症状がないことも多く、高齢者になるほど、心房細動を持つ人が多くなることが報告されています。今、一番の問題は、そういう高齢者が心房細動を発症して突然、脳梗塞を起こすことなのです。ですから、普通の脳梗塞とは、予防の仕方も変わってくるのですね。

--- 人種差もある

 東洋人には脳梗塞が多いのです。黒人も実は多いのですが、白人はむしろ心筋梗塞が多いのです。これは遺伝的、あるいは生活習慣かもしれませんが、われわれ日本人は、脳卒中が起きやすい人種であることは間違いないようです。それと男女の性差では、大体2対1の割合で圧倒的に男性が多いといえます。ただし閉経後、高齢になると女性も動脈硬化を起こしやすくなり、脳卒中が増えてくるのです。

--- 動脈硬化には、いくつものリスクがある

 動脈硬化のリスクの一つに高血圧があります。高血圧になると、体内に「アンジオテンシンII」というホルモンが増え、「AT1」というアンジオテンシンIIの受容体を刺激して血管壁を厚くしたり、炎症を起こしたりして動脈硬化を進展させます。疫学的にみて脳梗塞の原因の頻度としては、大体3人に2人が高血圧で、脳梗塞を起こすリスクが、高血圧でない人よりも3?5倍になります。また、脳梗塞の原因の2番目には糖尿病が挙げられますが、あるデータでは、糖尿病がある人は糖尿病でない人に比べて脳梗塞を起こすリスクが2-4倍となります。3番目には、脂質代謝異常ということになるでしょう。それに最近注目されるリスクに肥満があります。最近の疫学調査では、肥満は、脳梗塞や心筋梗塞を起こすリスクをほぼ2倍に高めるといわれています。これからは、肥満にもことさら注意をはらわねばなりません。

--- 沖縄がそのいい例で

 確かに、日本人は以前、外国人に比べやせていたのですが、最近は生活習慣が欧米化し、どんどん肥満が増えています。そのいい例が沖縄で、車社会の影響などで体を動かさなくなり、脂肪の摂取量も増え、肥満者が若い人を中心に増えていることは間違いないことです。それが将来の心血管病の発症につながるのではないかと危惧(きぐ)されるわけで、そういう生活習慣病をきたしやすい状況を打開するためにも、今回の「特定健診・保健指導」が始まるわけです。

--- リスクを減らすには

 基本的には、運動と食事療法、これは高血圧も糖尿病も同じことです。リスクが複合して、例えば肥満に糖尿病、脂質代謝異常などの兆候が重なるいわゆるマルチプルリスクファクターになっている状態だとしても、まずは発症を抑制する予防を第一に考え、積極的に取り組んでいくことが肝心です。結局、メタボリックシンドロームにしろ、生活習慣病にしろ、最初に、血管の内皮細胞の機能を障害しますので、血管を健全に保つ、血管の壁やそれを覆っている内皮細胞を障害されることから守ってあげることが動脈硬化を防ぐことになります。そのためにも生活習慣を変え、しっかり運動してカロリーを消費し、体重は増やさないようにすることが大事なことなのです(「脳卒中予防十カ条」参照)。

 糖尿病に関しても、網膜症や腎症など細い血管が障害される合併症については、血糖コントロールを良好に保つことで予防できる可能性が高いですが、脳卒中や心筋梗塞といった大きな血管が障害される合併症は、良好な血糖コントロールだけでは予防しきれないこともわかってきています。糖尿病に特徴的な病態ともいえる「インスリン抵抗性」(血糖を下げるホルモンのインスリンが血液中にたくさんあるのに血糖値が下がりにくい状態)が動脈硬化をひきおこすともいわれており、その是正も併せて行うことが必要になっているのです。脳の血管が詰まり、認知症になるケースが多いことが知られていますが、血管の障害度を増す炎症のマーカーが高い患者さんほど認知症のリスクが高まることも報告されています。

                   ◇

   【脳卒中 予防十カ条】

 ●手始めに、高血圧から治しましょう

 ●高すぎるコレステロールも見逃すな

 ●糖尿病、ほっておいたら悔い残る

 ●不整脈、見つかり次第すぐ受診

 ●お食事の塩分、脂肪控えめに

 ●体力に合った運動続けよう

 ●万病の引き金になる太りすぎ

 ●予防にはタバコを止める意志を持て

 ●アルコール控えめは薬、過ぎれば毒

 ●脳卒中、起きたらすぐ病院へ

  (日本脳卒中協会 2005年)

 (2008/03/16)


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