特定健診(1/2)
2008.03.22

□帝京大学医学部内科教授 寺本民生氏に聞く

 ■健康行政に一石

 公衆衛生学的に見れば、たくさんの人を動脈硬化などの病態から救い上げるには、純然たるサイエンスを下敷きにして、皆が取り組みやすいように普遍化し、腹囲などわかりやすい数値目標を設定して一般化することは重要である。まさしくそれがメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の概念を取り入れた「特定健診・保健指導」であり、目的がわかりやすいだけに、「数値を何とかクリアしよう」と、国民の多くに「自己管理」に励む心が芽生えつつある。それでも、日本人の間では、脳梗塞(こうそく)ばかりか、30、40代で心筋梗塞になる人が増えている。帝京大学医学部の寺本民生教授は、「特定健診は、測定だけでなくフォローまでするわけで、日本の健康行政では非常な進歩」と評価する。(大串英明)

 ■LDLコレステロール対策 心血管病予防に不可欠

--- 心血管病対策の必要性について

 わが国の死因は、悪性腫瘍(しゅよう)(がん)と動脈硬化性疾患がほぼ同数であわせて半分を占めています。欧米では心血管病を主体とした動脈硬化性疾患が多く、世界的な視野からは、心血管病をいかに予防するかが非常に重要なことになってきています。わが国では、まだ心臓の血管障害より脳血管障害が多いのです。困ったことに、これは寝たきりなど、QOL(生活の質)、ADL(日常生活力)の低下をもたらし、介護など社会的な問題になっているうえに、非常に医療費がかさむ原因になっています。欧米各国では、以前から心血管病予防がメーンの国策だったのに対し、わが国では、長年がん対策を続けてきたわけですが、今ここにきて明らかに心血管病が増えつつあり、それら動脈硬化性疾患のもとをリスクの段階で押さえ込むという意味でも、メタボリック対策が重要なキーワードになっているのです。

--- LDLコレステロールは

 メタボリックシンドロームの診断基準に入っていないから、誤解される人もいるかもしれませんが、心血管病予防において、悪玉のLDLコレステロールを下げることは非常に重要です。それがわかってきたのは、1980年代後半からで、心血管病予防に関して、コレステロール治療薬の「スタチン」を使った、多くの臨床試験が海外で行われ、その結果、こうした薬の投与で心血管病が30%ぐらい減少することがわかりました。これは非常に重要なことでして、さらに死亡率まで低下することも明らかになっており、LDLコレステロールを下げることの有効性は確立しました。しかし、確かに30%は心血管病の発症を低下させますが、完全には抑えることはできません。そのためLDLコレステロール以外の危険因子にも注目する必要があります。そこで浮かび上がってきたのがメタボリックシンドロームなのですね。

--- なるほど

 1990年前後から、肥満・血圧高値・高血糖・脂質異常などが重なっている人たちに心血管病を起こしやすい人たちがいることが問題となりました。肥満を中心とした、軽いながらも複数の危険因子が重なった病態としてシンドロームXや「死の四重奏」「内臓脂肪症候群」など一連の症候群が動脈硬化を起こしやすいことがわかり、WHO(世界保健機関)が「メタボリックシンドローム」という名前をつけて病態をまとめることになったのです。ですから、LDLコレステロールが高いことと、メタボリックシンドロームは、ちょうど並行して動脈硬化を引き起こす存在でもあるわけです。LDLコレステロールはコントロールしやすくなっていますが、メタボリックシンドロームは解明されていないことも多く、また生活習慣に根ざしたものでもあるので、これを改善していくことは、なかなか難しい状況です。一人一人が自分で改善することが重要だと認識しない限りうまくいかないのです。そういう意味でも国民的運動になってきていることは心強いことです。メタボリックシンドロームの治療というのは、基本的に脳梗塞などを含む脳・心血管病をターゲットにしていることを認識する必要があるし、それを予防するためにメタボリックシンドローム撲滅運動があることを忘れてはいけないでしょう。

--- 「内臓脂肪」「腹部肥満」が注目されている

 内臓脂肪といっても、目には見えませんが、確かに、内臓脂肪がたまっている人たちにメタボリックシンドロームが起こりやすいことはまぎれもない事実です。さらに、糖尿病に関連して、インスリンの働きが悪くなる「インスリン抵抗性」のある人たちも起こしやすいので、そういう人たちもピックアップする必要があるでしょう。医師、研究者の態度としては、腹部肥満を前提にして高血圧、脂質・糖代謝異常など一連のリスクを併せ持つ、そういう人たちに何が起こっているのか、ということを追究していくのが正しいことです。だから、その原因の一つとして、脂肪細胞から分泌される「アディポサイトカイン」という生理活性物質のことが盛んに取り上げられているのです。

--- 科学的裏づけですね

 脂肪細胞の研究が進み、「アディポサイエンス」という学問的進歩があったことで最近、メタボリックシンドロームが注目されることになったのです。概念がまとまるためにはサイエンスが必要で、前述のLDLコレステロールも、受け皿になるLDL受容体というタンパク質が発見されたのをきっかけに一般的になってきました。それと同じで、メタボリックシンドロームも、大阪大学を中心とした長年の研究成果が実り、脂肪組織、特に内臓脂肪から分泌される一つ一つの分子、生理活性物質の影響がわかってきました。内臓脂肪がたまると、生理活性物質が分泌し過ぎて血圧・血糖を高くし血管内皮を傷つけたり、逆に抗動脈硬化作用を発揮する「アディポネクチン」などの存在が明らかになってきたのです。そういうサイエンティフィックな発見が、すごい推進力になって、細胞生物学的なレベルでも共通認識となり、世界各国とも腹部肥満が重要だとして動き始めているのです。

(2008/03/22)


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