■測定だけでなくフォローも
--- 腹囲径は国によって違いがあるようですね
違って当たり前でしょうね。例えば欧米の人たちと日本人とでは、体形が違うし、太っているのが当たり前の社会と、どちらかというとスリムな人が中心の社会とでは、同じ基準でものを考えることはできないわけです。脳卒中を起こしやすいわが国特有の理由を考えても、最終的には、メタボリックシンドロームに突き当たるし、スリムな日本人でも、見た目にやせていても、脂肪組織が悪さをしているかもしれません。もちろん、科学的に不透明なところは明確にしていく必要があります。ただ、こういう健康診断の際には、ある一定の数値を基に線引きする必要があります。これは公衆衛生学的に重要なことであって、それとサイエンティフィックに重要なこととをごちゃ混ぜにすると、議論がおかしなことになります。
サイエンスで考えれば、内臓脂肪の量がすごく重要なことで、それが多いものが確かにいろいろな悪さを起こしてくることはわかっていますが、一般化して浸透しやすい目安となると、腹囲径ということになるわけです。それで90%以上のメタボリックシンドロームを見つけ出すことができることが公衆衛生学的に重要なことなのです。
--- 女性は、もともと心血管病が少ない
40代、50代ぐらいまでは、男性と比べ極めて少ないです。しかし、その後はぐんぐん上がり始め、わが国では70歳ぐらいで男女比10対9となり、まだ男性の方が多い。女性の腹囲径90センチは大き過ぎるのではという議論もありますが、8年前、2000年に日本肥満学会で肥満症のガイドラインを作成した当時、以前の調査に基づいて女性90センチというのが、すでに「内臓脂肪型肥満」を示す数字として採用されていたのです。
われわれにしてみればごく当たり前の数値ですが、メタボリックシンドロームの診断基準として設定され論議の的になり始めたのです。多少、大き過ぎるかなという意見もありますが、今後エビデンス(科学的証拠)を積み重ねて再考の余地があれば、再検討していこうとの考えです。
--- HDL(善玉)コレステロール、中性脂肪については
両者とも肥満との関係が非常に強い。HDLコレステロールが低い人は極めて動脈硬化を起こしやすいが、それほど話題にならなかったのは、これに対するいい薬がなかったことにもよるのです。HDLコレステロールを上げ、中性脂肪を下げるには、運動が非常に効果的で、ともに生活習慣に密接に関連していることがわかります。特に30代、40代男性の中性脂肪が上がってきています。メタボリックで一番問題になるのは、こうした生活習慣が最も悪くなる世代の30代、40代の男性だと思うのです。
--- 脳卒中も多いとか
今、僕らが一番恐れていることは、入院患者さんをみても、50代前半の脳梗塞がすごく増えていることです。昔は、60代後半から70代の病気だったのですが、徐々に年齢が下がってきています。心筋梗塞も二極化して昔は63、64歳がピークだったのですが、最近、30代でも頻繁に出始めているのです。そういう人たちに限って肥満、脂質異常、糖尿病もありという状態で、それらが重なって心筋梗塞に至るわけで、由々しき事態なのです。恐らく将来的には、日本でもかなり心筋梗塞などの冠動脈疾患が多くなると思われます。
--- 「特定健診・保健指導」について
今回の特定健診・保健指導は、メタボリックシンドロームと完全に一致しているものではありません。メタボリックをひとつのカテゴリーとして、動脈硬化を起こしやすい人を引っ張り出そうというのが大きな狙いです。ですから、メタボリックの基準と一緒に、LDLコレステロールや喫煙者のチェックが入っているのです。今までの国のやり方は、測るだけで終わってしまいましたが、今回は、ちゃんと評価してその後の検証もするわけで、日本の健康行政の中では、ものすごい進歩だと思います。
こういうことをすることによって、10-20年後に心血管病がどの程度減るのか増えるのか、年ごとにみていけば、これは一つの壮大な調査になります。こうして集まった情報はアジアでも世界各国でも使える貴重な資料になります。
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【プロフィル】寺本民生
てらもと・たみお 東京大学医学部卒業。同大学付属病院第1内科、シカゴ大学留学、東京大学第1内科医局長、帝京大学第1内科助教授などを経て、平成13年、同大医学部内科主任教授。日本内科学会・日本動脈硬化学会理事、日本肥満学会評議員など。

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