「特定健診・保健指導」には、
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の概念が
大きく取り入れられています。
別名“メタボ健診”とも呼ばれていますが、
いわゆる生活習慣病の人たちのリスクを
事前に見つけて健康体に戻す、
という国を挙げての大作戦なのです。
内臓脂肪蓄積を示す腹囲径
メタボリックシンドロームとは、「腹腔内の脂肪、つまり内臓脂肪の蓄積が原因で高血糖、脂質代謝異常、高血圧が重なり、最終的に心筋梗塞などの血管病になりやすい症候群」と、診断基準を取りまとめた日本肥満学会理事長で住友病院長の松澤佑次氏は定義付けています。結局、動脈硬化を引き起こす、一連の病態の最上流にあってキープレイヤーとなっているのが「内臓脂肪蓄積」であり、日本語訳では、メタボリックシンドロームのことをカッコ付きで、(内臓脂肪症候群)となるわけです。
メタボリックシンドロームの疾患概念は、以前から知られていました。「シンドロームX」や「死の四重奏」などとも呼ばれ、高血圧や高血糖、脂質異常などが重なると、自覚症状もないのに動脈硬化に至り突然死を招く。そうした概念の上に、新たに内臓脂肪蓄積が原因の筆頭として加わったのです。わが国では、大阪大学グループが、長年、CT(コンピュータ断層撮影)スキャンなどを使って内臓脂肪を精密に調べ上げていました。腹部肥満が目立つようになると、内臓脂肪から悪玉のホルモンが分泌され、その一方、動脈硬化を修復する善玉ホルモン「アディポネクチン」が減少するので、さまざまな代謝の悪化を招き、動脈硬化へのリスクが高まることを突き止めました。
単なる「エネルギーの貯蔵庫」と見られていた内臓脂肪が、「巨大な内分泌器官」であることが判明し、ひとつの科学(「アディポサイエンス」)として確立しました。
皮下脂肪では、なかなかエネルギー消費できないのに、内臓脂肪は蓄積しやすい半面、運動などで減らすこともたやすいことがわかってきたのです。CTを導入したメタボ研究は、日本以外ほとんどなく、わが国独自の研究成果として、世界的なコンセンサスも得ているのです。
メタボリックシンドロームの元凶が「内臓肥満」であることは間違いありません。それに加え、「血圧・脂質・糖の異常など個々の危険因子が軽度であっても、集積すると脳卒中や心筋梗塞の発症率が高まる」(順天堂大学医学部循環器内科、代田弘之教授)のです。これまでお腹が少し太めでも大したことがない、と軽く見ていた中年男性などが最も危険なことがわかってきたのです。
こうした考えから2005年に、日本動脈硬化学会、日本糖尿病学会など内科系の8学会が合同委員会を編成し、メタボリックシンドロームの診断基準を作成しました。その必須条件となったのが内臓脂肪蓄積を示す腹囲径(男性85センチ、女性90センチ)です。これは男女それぞれ100平方センチの内臓脂肪面積に相当し、それ以上だと、動脈硬化のリスクが高まる恐れがあることなどから決められた数値なのです。
軽度肥満の日本こそ有効
ただ、腹囲径に関しては、厳密というわけではありません。「本来なら内臓脂肪を測る必要があり、一般にわかりやすい目安として腹囲径を取り入れたのです。診断基準に当てはまるから病気で、当てはまらないから健康、というわけではありません。検査異常が2つも3つも重なれば内臓脂肪の有無にかかわらず対策の必要があります」と松澤院長。従って、こうした腹囲基準に加え、脂質の中性脂肪・HDL(善玉)コレステロール▽高血圧▽高血糖のうち2項目以上該当すれば、メタボリックシンドロームと診断されるのです。ちなみに腹囲径に関して、IDF(国際糖尿病連合)がアジア統一基準を打ち出していますが、体格や栄養状態も違い、メタボ研究も出遅れている各国に準じて「国際標準化」を受け入れるのは、論外でもありましょう。「国際基準と違うのはおかしい」とする一部マスコミの論法には、理解し難いものがあります。
こうしたメタボ基準に対し、特定健診・保健指導の基準は、腹囲径が基準未満の人や、BMI(体格指数)25以上の人もリスク判定に加え、さらに喫煙歴の有無▽血糖値は110から100mg/dLに下げている、などの異なる点があります。メタボ診断基準には抜けていたLDL(悪玉)コレステロールも検査項目に入っています。公衆衛生学的に考えて万人向けに、より一般化、普遍化しているともいえるわけです。
京都大学大学院教授で日本内分泌学会理事長の中尾一和氏は、「もはや欧米では、肥満度が進み過ぎて適切な対策は無理かもしれません。まだ軽度な肥満のわが国だからこそ、メタボリックシンドロームの概念のもと、世界に先駆けて健康づくりのコンセプトとして対策を進めていくことが大切なのです」と語っています。これまでにも、リスクの重なった人たちが、肥満解消や食事・運動療法で健康体に戻るという幾多のエビデンス(科学的証拠)も明らかになっています。生活習慣の改善がリスクの減少、メタボ予防につながるのです。
飽食・運動不足の時代、メタボリックシンドロームは、「現代病」といっていいかもしれません。重症化すれば、寝たきり介護などが増えて膨大な医療費がかかることになります。今回の特定健診・保健指導は、「壮大な予防医学のスタート」(松澤院長)ともいえるわけですが、メタボ解消にはまた、一人ひとりの自己啓発、自己コントロールが問われているといってもいいでしょう。

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