この四月から始まる特定健診・保健指導は、病気の治療から予防へと大きく方針転換させた健診制度だ。その考え方のもとになっているメタボリックシンドロームの概念が、改めてクローズアップされている。診断基準となる腹囲について論議が起きているのも、国民の関心の高まりの表れだろう。日本のメタボリックシンドローム診断基準づくりに携わった松澤佑次・住友病院院長に、メタボ対策の正しい理解について聞いた。
■動脈硬化は予防できる
--- メタボリックシンドロームとは
松澤 いわゆる生活習慣病の概念で、いまの飽食、運動不足の環境から増えてきた病気を総括して言います。その一番身近な病気が、血糖が上がる糖尿病、血圧が上がる高血圧、中性脂肪、HDLコレステロールといった脂質に異常が起こる脂質異常症です。それぞれが病気として認知されていますが、共通の最終結果に動脈硬化があるのです。
心筋梗塞や脳梗塞、大動脈瘤など、それらを足すと日本ではがんに匹敵する死亡原因になっています。助かる場合でも、麻痺が起こったり、心臓が機能不全になって寝たきりになったり、社会復帰できない場合が多い。これから高齢化社会になると、そういう病気を一人でも減らすことが大きな課題になってきます。
--- 予防できるのですか
松澤 がんに比べると、動脈硬化の予防は速やかに結果が出ます。今までは、コレステロールが単独で大きなリスクになるとして、それを下げる薬の開発などに力を入れてきました。しかし、コレステロールだけでは予防できないものもあり、いわゆる生活習慣病が重なった状態が動脈硬化の大きな原因になっていることが分かってきました。
もちろん、高血圧、脂質異常症、糖尿病が、それぞれ生活習慣に関係なく、遺伝や体質によって起こるものもあります。でも、それらがどんどん増えているのは、飽食と運動不足の時代に起こっている栄養過剰が大きな原因となっており、とくに内臓脂肪蓄積が生活習慣病を複数起こす主役であることが分かってきました。その場合、一つひとつ薬で治療するのではなくて、もとにある内臓脂肪を減らすという生活習慣改善が非常に効率がいい。複数のリスクを一網打尽に改善できるのです。
そして、動脈硬化の危険が大きく下がって、ある日突然、心筋梗塞、脳梗塞で倒れるという人が減るのは確実だと考えて、いわゆる生活習慣病の改善によって予防しやすい人を選び出そうというのが、メタボリックシンドロームの診断基準です。それに対して、内臓脂肪を減らすような生活習慣の指導をして
いくというのが、今回の健診制度の中核をなしているんじゃないかと僕は思っ
ています。
【特定健診・保健指導】
4月から、メタボリックシンドロームの概念に着目した「特定健診・保健指導」がスタートする。40歳から74歳の全国民が対象で、健康保険組合、国民健康保険などが加入者に対して実施する。
まず、腹囲が男性で85センチ、女性で90センチ以上、または体重を身長の2乗で割ったBMI(肥満度)が25以上の人を、メタボリックシンドロームの候補とする。さらに、血糖、脂質、血圧などの検査結果から、リスク要素が多い人を「積極的支援レベル」として生活習慣改善のため保健指導を行う。
--- 2005年に日本肥満学会など八学会合同で定めたメタボリックシンドローム診断基準が導入されていますね
松澤 僕らが診断基準を発表した本来の目的は、健診制度を実施してもらうためではありませんでした。こういう疾患の概念を医療の中で各ドクターに認識してもらい、従来のように一人の人に糖尿病と高脂血症、一つひとつに対して薬で治療するのではなく、メタボリックシンドロームという一つのくくりで、薬治療の前に、内臓脂肪を減らす生活指導の重要性を認識して、患者さんに指導してもらうという疾患概念を提唱したものです。
一方、厚労省は2000年から「健康ニッポン21」(21世紀における国民健康づくり運動)で生活習慣病対策に取り組んできましたが、単に全員に痩せましょうというキャンペーンだけでなく、内臓脂肪のたまった人に重点を置いた対策をすれば効果が大きくなると、僕らと別に考えていたわけですね。そ
こにたまたま、メタボリックシンドロームの診断基準ができたものですから、それを使って医療改革の中心に据えた。これは完全に偶然だったんです。また、高血圧、高血糖など各々の危険因子は軽症でも、重複すると動脈硬化の発生率が高くなるマルチプルリスクファクター症候群(集積症候群)において、内臓脂肪がキープレーヤーになっているという世界的コンセンサスもできてきて、ちょうど機が熟したといえます。

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