○帝京大学医学部教授・寺本民生氏
■「低いと死亡率高い」は因果の逆転
総コレステロール値がすごく低い人の死亡率が高いという事実は、ずっと以前から、米国の男性36万人を対象とした大規模な横断調査や、滋賀医科大学教授(福祉保健医学)の上島弘嗣氏らによる「NIPPON DATA80」などの疫学調査でも明らかになっています。
上島氏らは、1980年代から19年間、総コレステロール値をみて追跡調査したところ、低コレステロール値で亡くなっている人の多くは、肝臓病が原因とわかったのです。肝臓の悪い人は、コレステロールの合成能力が落ちるわけですから、結果としてコレステロール値が低くなるのです。
さらに上島氏らは、肝臓病の人を除いて再度計算し直し調査したところ、コレステロール値が低い人の死亡率が上昇するということは消失したのです。一方、米国では、調査期間の最初に、コレステロール値が低くなる疾患を持つ患者さんを除外して調べたところ、コレステロール値が低い人の死亡率の上昇という現象は、消えてなくなることがわかったのです。
上島氏は、「因果の逆転」という言葉をよく使い、「コレステロールが低いから死亡率が高いのではなく、死亡する原因があるからコレステロールが低いのだ」と、因果が逆転した捉え方をいさめています。
例えば、今は病気ではないけれどコレステロールは高い。しかし、5〜10%の確率で心筋梗塞になる。それを治療して下げ、動脈硬化を予防できたとするのが臨床介入試験です。そのことと、低コレステロールの人が死亡率が高いから下げてはいけないというのとでは、全然土俵が違う議論です。コレステロール値が高い人を下げる。治療するということと、横断的に調査した疫学データを混在する議論は、絶対してはいけません。
日本では、大規模臨床試験の「メガスタディー」で悪玉(LDL)コレステロール低下療法が動脈硬化予防に有効との結論になり、日本人に対しても科学的なエビデンスが確立してきたわけです。
女性に関しては、エストロゲンという女性ホルモンが本質的に動脈硬化を予防する効果を持っているので、薬を使ってさらにコレステロールを下げる必然性は少ないと思われます。「NIPPON DATA80」でも、40歳〜50歳にかけての女性の大半が心筋梗塞を起こしていないことがわかりました。昨年、改定された日本動脈硬化学会のガイドラインでも、女性に関しては、ホルモンが途絶えてくる閉経後には、きちっと治療すべきことをうたっています。しかし、閉経前の女性に対しては、薬物治療を施す必要性はほとんどないとし、ただ、食事の注意だけはしてくださいと、言っているだけなのです。
実は、WHOは、2002年にワールドヘルスリポートの中で、大きな方針転換をしています。要するに、2001年までの死亡率を追跡調査したところ、感染症や低栄養による死亡率は半分以下になってきて、基本的にはがん、あるいは動脈硬化の病気が占める率が格段に高くなってきたのです。それを予防しないことには、世界の寿命も延びないことがわかり、むしろ現在は、高栄養の人たちに対して生活習慣を改善しましょうというのがWHOの考え方なのです。日本の疾患もそういう流れの中にあることを認識しておく必要があるでしょう。
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【プロフィル】寺本民生
てらもと・たみお 東京大学医学部卒業。シカゴ大学留学、東京大学第1内科医局長などを経て平成13年、帝京大学医学部内科主任教授。日本内科学会・日本動脈硬化学会理事など。2007年版動脈硬化性疾患予防ガイドラインの診療・疫学委員会委員長を務める。

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