特定健診・特定保健指導(3/3)小児肥満、親子ともども「食育」必要
2008.07.20

 メタボリック撲滅委員会の今年度第1回実行委員会は、6月27日、大手町サンケイプラザで開かれ、「特定健診・保健指導」スタートから3カ月の状況や今後の方策などについて話し合った。

 出席者は、リーダーで実行委員長の宮崎滋・東京逓信病院内科部長をはじめ、委員の横出正之・京都大学探索医療臨床部長・教授▽柴輝男・三井記念病院糖尿病代謝内科部長▽和田高士・東京慈恵会医科大学新橋健診センター所長▽宮地元彦・国立健康・栄養研究所プロジェクトリーダー▽鈴木志保子・神奈川県立保健福祉大学栄養学科准教授▽菅野隆・健康創研代表。

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■筋トレ+エアロ メタボ予防に有効

 国立健康・栄養研究所プロジェクトリーダー・宮地元彦氏

 メタボ予防を機軸とした「特定健診・保健指導」では、食事とともに運動の成果も問われている。国立健康・栄養研究所プロジェクトリーダーの宮地元彦氏らは、フィットネスクラブ「カーブスジャパン」との共同研究で、食事には介入せずに筋力トレーニングなどの運動でどれほど減量効果が上がるのか、報告を行った。

 運動プログラムは、筋トレ▽エアロビックエクササイズ▽ストレッチングの3つの組み合わせを30分で行うというもので、いわゆる無作為割り付け介入研究。参加者25人に対し4カ月間実施。30分の中身は、30秒筋力運動をしたら30秒有酸素運動の組み合わせを繰り返し、最後の5分間、ストレッチで終わる。それを週3回続けた。

 その結果、介入群と非介入群を比較したところ、体重約1.5キログラム、腹囲で約1.6センチの差が出て、収縮期血圧・血糖値もそれぞれ8mmHg・4mmg/dl下がり、動脈硬化指標の脈波伝播速度も低下。その間、筋量はむしろ増える傾向に。「普通、減量すると筋量も落ちてしまいがちだが、そういうこともなく体脂肪を効果的に落とすことができた」と宮地氏。

 平均値はさほどでもないが、中には、体重・腹囲ともに3キログラム・3センチ減った人も。一番劇的だったのは、脚伸展パワーが、30%も増加したこと。この成果からして、宮地氏は「長期に取り組めばメタボの改善に有効なことがわかった。脂肪を減らすけれども筋肉は減らさない。筋力を高めることで脚力・体力とも高まるので、介護予防にも役立つ」と語る。

 宮地氏は、NPOを通じて、早稲田大学健康保険組合の保健指導も行っている。4月から始まった「特定健診・保健指導」については、「健診の終了とともに電算化データが上がってくるはずだが、健診施設と健保と、私たちのNPOとをつなぐ情報ネットワークの仕組みが未完成で、遅れ気味です」と現状を吐露し、特定健診から特定保健指導へと、スムーズに移行する連動態勢の問題点を指摘している。

 一方、実行委員の間からは、期せずして子供の肥満や親自身を含めた「食育」問題が遡上(そじょう)。これに関連して宮地氏は、まず運動・身体活動に関する厚生労働省策定の「エクササイズガイド2006」が高等学校の教科書に掲載されていることを明らかにし、今後、「食事と運動の両面から、学校という大事なプラットホームの中で変に“ゆとり教育”でなく、教育すべきことをしっかり科目を通して教えてほしい」と語った。宮地氏は、日本学術会議の、子供の肥満やメタボ予防を目的としたエクササイズガイドラインづくりを支援している。また、同研究所でも、子供の肥満は、疫学上も、母親の胎内環境や低栄養と連動しているとの判断から、むしろ若い女性の間では、“やせ過ぎ”が問題だとして取り組む構えだ。

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■喫煙もメタボ対策の一環 宮崎 滋氏

 男性のウエスト85センチ、女性90センチというのは、あくまでメタボリックシンドロームの診断基準をみていくうえでの入り口です。肥満・内臓脂肪の蓄積が基本にあり、なおかつ高血圧や脂質異常などのリスクが集積してくるというのが問題なのであって、ウエスト数値が1センチ少なかったから良いということではありません。今回の「特定健診・保健指導」は、メタボ予防に励む個人個人の努力をサポートすることはむろんのことですが、これからは、「地域」としてバックアップしていくことが重要。さらに職場や会社の食堂などの「職域」、ひいては家庭での親御さんの教育も含めた「食育」などが、キーワードになるでしょう。「喫煙」もメタボ対策の一環として見逃せません。肥満に基づく健康障害は、今後も増える一方です。肥満を予防しない限り、日本人の健康は保てません。そして肥満の中でも、おなかの脂肪太りが悪いのだと、メタボリックシンドロームの危険性を正しく理解してもらったうえで、予防対策の焦点を絞り、今後も一層、実りあるキャンペーンを続けていきたい。

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■若年層にコレステロール問題 横出正之氏

 診療の現場では、患者さんたちの、特定健診にいくべきか否かという素朴な質問も多いのです。そういうことからも、まだ一般の方々の理解は十分でなく、実行委員会としては、なぜ国民全体で予防していかなければいけないのか、さらなる社会啓発が必要でしょう。特定健診によって生まれてくるであろう科学的なデータを基に、日本人の新たな健康づくりのエビデンスを市民の方々と一緒に構築していく姿勢が大事です。若年者のコレステロール値の上昇についても、子供のころから10代にかけての食習慣が大きく変わってきていることが背景にあることは明らかで、そうした若年者が年を重ねると、現在の高齢者よりはるかにリスクが高くなることは間違いなく、「長寿国日本」も危ういことになります。小児の肥満はすでに重大な問題になりつつありますが、学校教育ばかりでなく、地域が一体となって子供を守っていく運動を展開していくことが必要です。 

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■運動できる環境づくりを 柴 輝男氏

 公衆衛生や統計の面から考えると、今回の「特定健診」には、今後きちんと健診データを集めて検証すれば日本人全体の健康づくりを把握するサンプリングとなり、わが国の健康増進システムの貴重なツールとして活用していけそうです。従来の健診との相違などからさまざまな意見も出ていましたが、各診療現場では、検査項目ひとつとっても間違えてはいけないなどと懸命に取り組んでいます。

 「特定保健指導」は、努力して一歩でも前進できれば評価される仕組みを構築して、個人・保健組織が連携して健康づくりに励める態勢が必要です。糖尿病療養指導士が特定指導にもお役に立てると幸いです。メタボでも重要な血糖値ですが、自分でも常にその値を知ることが大切で、糖尿病の予備群を見つけ、メタボを監視する意味でも、家庭で簡単に測れる自己測定器が普及するといいですね。メタボ予防につながる子供たちの運動については、室内遊びばかりしないように放課後の校庭を開放するなど、学校教育に限らず、身体を動かす遊びができるような社会の環境づくり、体制づくりが必要です。

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■楽しく学べる工夫を 和田高士氏

 私どもの施設(東京慈恵会医科大学新橋健診センター)では、9年前から健診者全員に腹囲測定をしてきました。当初はいろいろ質問がありましたが、最近はその意図も分かってきており、現在、翻って考えますと、多くの人の理解度は、私どもの施設の9年前と同じ状況と思われます。

 特定健診は進みつつありますが、特定保健指導の方は、わが施設でもまだ1件も実施していない段階です。決められた枠組みの中でどこまで効果を出せるか。秋以降、問題点なども含めクローズアップされてくるでしょう。小児メタボの問題は、親子ともどもの正しい理解が必要です。どうすれば食べ過ぎや食事バランスを楽しく学べるか、例えば「食事トランプ」といった親子一緒に遊びながら学べる工夫をこらすことも大事ですね。

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■“やせ志向”ただす政策必要 鈴木志保子氏

 最近、私あてに入ってくる講演依頼オーダーは、(1)特定保健指導のことはもうわかったが、実際効果を上げるには具体的にどうしたらいいか(2)さまざまな対象者に、どういう言葉遣いなどで接したらいいのか(3)私たちの評価は正当にしてもらえるのか?といった内容を盛り込んでほしいとのことでした。つまり、渦巻く疑問を解消してほしいということでもあるのですが、例えば、毎年ウエストが3センチずつ増えていた人が今年は増えなかったとして、それは評価の対象になるのか、ならないのかといったことです。初年度は、こうした効果と評価をめぐって模索状態が続くと思われますが、半面、現場ではすでに検証の段階に入ってきているという現状認識を持っています。一方、子供の肥満については、すごく太っているかやせているか、「二極化」も問題になっています。やせている子供の親御さんは、やせ志向で太ることを許さない。普通の体を維持することとは違うのだけれども、そこの境目が親御さんにはわからない。肥満対策とともに、“やせ志向”をただす政策も必要です。

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■腹筋力も鍛えよう 菅野隆氏

 日ごろ、健康運動としてウオーキングを行っている人は多いのですが、筋トレを習慣的に行っている人はまだまれです。これからはメタボ予防やその先の介護予防のためにも、筋力トレーニングを重要な運動として生活に組み込むように啓蒙(けいもう)していく必要があります。私が担当した複数の運動教室のデータでは、最初の体力評価では、腹筋力が一番低いのですが、教室で鍛え始めると、逆に一番改善率が高く、それだけ日常では腹筋が使われていなかったということになります。意識して使えば、腹部周辺筋の血行や基礎代謝も高まり、メタボリックの内臓脂肪の減少にもつながるものと思います。特定保健指導では、複数の自治体から運動教室の依頼などがありますが、現状の施策では、保健師・管理栄養士が中心で、運動はプラスαといった感じがあることは否めません。初年度ですから、担当者は試行錯誤。小児メタボに関しても、小中高の学校体育の指導要領を競技スポーツ中心ではなく、生涯にわたる健康運動の増進、つまり生涯健康教育としての運動習慣を身につけるよう、例えば、運動が得意でない生徒でも運動に対するネガティブイメージを持たせないようなカリキュラムに改訂する必要があると以前から思っておりました。                   

(2008/07/20)


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   宮崎 滋(東京逓信病院内科部長)
医学分野
   片山 茂裕(埼玉医科大学内科学教授・同大学病院病院長)
   横出 正之(京都大学探索医療センター・探索医療臨床部長・教授)
   和田 高士(東京慈恵会医科大学総合健診・予防医学センター教授・同附属病院新橋健診センター所長)
   柴 輝男(三井記念病院糖尿病代謝内科部長)
   中川 徹(日立製作所健康管理センタ放射線診断科主任医長)
医療・保健指導分野
   津下 一代(あいち健康の森健康科学総合センター副センター長兼健康開発部長)
   野口 緑(尼崎市国保年金課健康支援推進担当課長補佐・保健師)
運動指導分野
   宮地 元彦(国立健康・栄養研究所 健康増進プログラム運動ガイドライン プロジェクトリーダー)
   斉藤 満((社)日本ウオーキング協会事業局長)
   菅野 隆(健康創研代表・健康運動指導士)
食事指導分野
   鈴木志保子(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授)
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