【検証 メタボリックシンドローム】 喫煙とメタボそのメカニズム
2008.09.03

□千葉大学医学部講師 横手幸太郎氏に聞く

■喫煙で一気にリスク倍増 やめれば高齢でも大幅減少

 「喫煙」が健康にとっていいことは、何ひとつない。リスクとして肺がんなどの呼吸器系の疾患が注目されてきたが、最近は、喫煙が直接、動脈硬化に影響し脳梗塞や心筋梗塞などの強力なリスクとなることが認識されるようになってきた。7月中旬に行われた「日本動脈硬化学会」でも、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)との関連を指摘する疫学的な報告が相次ぎ、喫煙がメタボ・リスクを倍増させることもわかってきた。

 横手講師によると、1990年代に、たばこの害についてまとめた米国の調査では、肺がん、喉頭(こうとう)がん、口腔がん、食道がん、ぼうこうがん、それに、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などに加え、心筋梗塞、狭心症などの冠動脈疾患の発症、ならびに、あらゆる心血管病の死亡リスクとの因果関係が示されている。

 従って、わが国のがん治療学会はじめ、呼吸器学会、循環器学会なども軒並み「禁煙宣言」をしているが、動脈硬化に関連しても、日本動脈硬化学会では、「エビデンス(科学的証拠)レベルA」の扱いで「喫煙は冠動脈疾患、脳卒中の危険因子」と、うたっている。

 こういう実態は、米・フラミンガム研究はじめ、いくつも報告されているが、わが国でも福岡・久山町研究で実証されている。5万人以上を対象に追跡調査した「NIPPON DATA80」では、脳卒中死亡については、喫煙者は非喫煙者に対し、その相対危険度が、21本以上吸う人は2.17倍、冠動脈疾患(男性)死亡では、4.25倍だった。

 横手講師は「足の切断に至る閉鎖性動脈硬化症や手足のバージャー病(閉塞性血栓性血管炎)などに強く影響し、脳梗塞、くも膜下出血のリスクも高くなる」と指摘。また、厚生労働省のコホート研究でも、くも膜下出血は非喫煙者の4倍のリスクとなるうえ、冠動脈疾患の発症危険度は、非喫煙者と比較して男性約4倍、女性約3倍となる。

 ところが、年齢が高くなっても喫煙をやめれば、リスク減の効果は抜群だった。「Surgeon General Report(米国軍医総監報告)」に示された疫学調査では、50歳までに禁煙すると、65歳までの15年間で死亡のリスクが半減。禁煙は、あらゆる病気のリスクを、年を経るごとにグーッと減らすことになる。わが国のデータでも、例えば筑波大学グループの研究では、「10年ぐらいたばこを吸わないでいると、完全に吸わない人と同じに戻る」としている。こうした疫学結果は、日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2007年版)にも収載され、「心筋梗塞後の禁煙でも死亡率を30〜60%まで減らすことができる一方、喫煙を続けた場合は、再発症のリスクが3.1倍となる」とし、糖尿病に関しても「1日20本以上吸う人は、非喫煙者に比べ、2型糖尿病の発症が約1.6倍多い」という海外のメタ解析もある。「J-LIT(日本脂質介入試験)」研究では、女性の方が喫煙のリスクが高い。冠動脈疾患の発症リスクが、女性2.2倍、男性1.2倍となっている。妊婦に関しては、「妊娠3、4カ月前にたばこをやめると、低体重児の出産が減り、たばこを吸い続けると、未熟児で生まれる危険性が高くなる」と横手講師。受動喫煙で吸うたばこの煙の量は、100分の1にすぎないが、動脈硬化との関連については、「直接吸っている人が8割リスクが高くなるのに対し、受動喫煙でも3割上昇する」というデータを提示している。吸うか吸わないか、周りの人にも影響することは間違いない。

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 喫煙からどういうメカニズムで動脈硬化に至るのか? 横手講師は「酸化ストレスと呼ばれる刺激が重要。これが体内に増えると血管の内皮機能を低下させ、血管も収縮・炎症を起こし、脂質代謝も悪化して粥(じゅく)状動脈硬化を促進する」と説明する。

 一酸化窒素(NO)は、血管の通りや内皮の働きを良くすることが知られている。ところが、喫煙は体内にフリーラジカルを増やし、酸化ストレスを増大させる。するとNOが減少し、血管の収縮や血栓の形成を容易にするとともに、血栓を溶解する「線溶系」の働きを弱める。「酸化ストレスが炎症をもたらし、本来つるつるだった血管内皮に接着分子が増え、白血球などが血管にへばりついて、コレステロールを取り込むことになる。LDL(悪玉)コレステロールの酸化も進みやすくなる」(横手講師)。つまり、同じコレステロール値でも、たばこを吸っていると、より一層コレステロールが悪さをしやすくなるのだろう。

 さらに喫煙は、HDL(善玉)コレステロール値を下げ、中性脂肪を上げると同時に、糖尿病の指標となる「インスリン抵抗性」を助長するというデータもある。体内に炎症性の悪玉サイトカインが増え、善玉の「アディポネクチン」が減るアンバランスも生じるという。「メタボリックシンドロームとこれらのリスクが重なれば、足し算ならぬ掛け算で動脈硬化を悪化させる可能性がある」と横手講師は強調する。

 最近、話題となっているのは、「血管内皮前駆細胞(EPC)」。血管壁が傷つくと、骨髄から血管壁を形づくる前駆体の細胞が内皮細胞となって修復に向かう作用が発見されているが、高血圧や糖尿病と同様、喫煙状態だと、この前駆細胞の数を減らすらしい。その一方でたばこをやめると、およそ2週間でEPCの数は戻ってくる。

 「たばこであっという間に肺が悪くなる人もいれば、長年吸っても何も起きない人もいる。そのような違いを生む遺伝的なバックグラウンドも知られるようになってきたが、まだ解明は不十分。しかし、たばこがたくさんの病気の危険因子となり、ありとあらゆる臓器に悪さをすることは間違いない。いずれにしても、健康寿命をおびやかすので、やめるのにこしたことはない」(横手講師)

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■データ面からも危険性証明 日本動脈硬化学会

 日本動脈硬化学会では「生活習慣病対策フォーラム」なども開催、メタボに関連して喫煙対策や循環器疾患リスクなどの発表も相次いだ。

 日本禁煙学会理事も兼ねる北海道・深川市立病院の松崎道幸内科主任医長は「働く世代の心血管疾患の一次予防」と題して喫煙対策を取り上げ、さまざまなデータを基に「日本人の働き盛り男性の最大死因」とたばこの害を位置づけた。茨城県健診受診者の追跡調査では、全死亡の24%が喫煙、11%が高血圧、3%が高血糖で生じるという結果事例を発表している。肥満と対比した群馬大学の疫学調査で高BMI(肥満指数25以上)男性の全死亡を比較したところ、喫煙者のみが有意に増加し、非喫煙者と禁煙者では増加していなかった。

 メタボとの関連については、「喫煙者は内臓脂肪が蓄積しウエスト・ヒップ比が増大。アディポネクチンも3割近く減る」などの調査事例を挙げ、「喫煙者は、間違いなくメタボの予備群」と語った。三井記念病院の法定健診受診者(都心のサラリーマン中心)に対してメタボの罹患(りかん)リスクを調べたところ、喫煙者は非喫煙者の2倍罹患リスクが高まることがわかった。「メタボの半分は喫煙が原因」(松崎医長)という。これらのデータから、松崎医長は、「健康を守るには、禁煙を最優先にしてもいい。人間ドックや健診でも、強力に禁煙指導を行うべきだ」と提言する。

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 また、国立国際医療センター循環器科の廣江道昭第一専門外来部長は「動脈硬化の最大リスク喫煙」と題して発表。米国人女性に対する調査研究で、「1日15本以上吸っていたら心血管疾患の死亡リスクは、軒並み高率」と説明した。

 たばこ成分のニコチンには強い血管収縮力があり、急激に血圧を上昇させることなど、副流煙を吸い込んだウサギの実験事例で示したほか、禁煙の効用として6年前、米モンタナ州ヘレナで半年間のみ公共の場での禁煙条例が施行された例を挙げ、その際ある病院では、その期間だけ入院患者が急激に減り、再開するとまた増え始めたという。大阪市内の病院で、心筋梗塞の入院患者のうち、禁煙を実行した群と吸い続けた群を比較したところ、明らかに吸い続けた群の死亡率が高かった。廣江部長は「臨床現場でも腹部大動脈瘤(りゅう)の患者さんの多くがスモーカーでした。今からでも遅くはない。禁煙すれば、次の大病を起こさなくて済むのです」と語る。

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■横手幸太郎:よこて・こうたろう 千葉大学医学部卒業。東京都老人医療センター医員、スウェーデン国立ウプサラ大学大学院博士課程修了、日本学術振興会特別研究員など経て平成18年、千葉大学大学院講師。日本動脈硬化学会評議員(動脈硬化診療・疫学委員)。

(2008/09/03)


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