【検証 メタボリックシンドローム】 若い女性の「やせすぎ」問題
2008.10.08
日本学術会議公開講座「気をつけよう!若い女性の『やせすぎ』」より

■子供への悪影響に警鐘

 若い女性の「やせすぎ」が問題となってきた。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)で「太りすぎ」の弊害が注目される中、若い女性の体重はここ十数年下がる一方。むしろやせすぎが進み過ぎて出産の際に「低出生体重児」が通常の2倍もの確率で生まれやすくなっている。将来その子らには、肥満・糖尿病などの生活習慣病が多発することもわかってきた。9月下旬開かれた「日本学術会議」の公開講座では、骨粗鬆(こつそしょう)症や摂食障害なども含め、若い女性の「やせすぎ」をめぐる深刻な現状が浮き彫りになった。

■低出生体重から生活習慣病も

 この公開講座は、「気をつけよう!若い女性の『やせすぎ』」と題して、9月22日、東京・六本木の日本学術会議講堂で行われた。内分泌・代謝分科会(委員長、松澤佑次・住友病院長)の主催、および厚生労働省・難治性疾患克服研究事業の参画で、産婦人科や内分泌代謝、小児科など専門医5人が一堂に介し、論議した。座長は、倉智博久・山形大教授、小川佳宏・東京医科歯科大教授。

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 三重大学産婦人科の佐川典正教授は、「『小さく産んで大きく育てる』は正しくない」をテーマに、低出生体重児は、成長に伴い生活習慣病が発症しやすくなることを欧米の疫学研究に基づいて解説した。

 最初の報告は1976年に発表された。第二次世界大戦のオランダでナチスの占領地域では、そうでない地域の人の3分の1の700キロカロリーしか取れない時代が続いた。「30年後、30歳になった両地域の人たちの肥満度を比較したところ、妊娠中の母体が低栄養で産まれた子供は大きくなって肥満が有意に多くなり、妊娠中は正常で授乳期に低栄養であった場合は、逆に肥満が少なかった」と佐川教授。

 その10年後には、英国のバーカー博士が、出生児の体重が2,500グラム以下の子供は、4,000グラムの子供に比べ成人になってから、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧など生活習慣病になりやすい比率が6倍にもなる、出生児の体重が小さいほど成人期に脳卒中など虚血性疾患による死亡率が高い、など、いわゆる「バーカー仮説」を報告した。その結果、胎児期にその人の将来の健康状態が決まるという「胎児プログラミング」の概念が提唱されてきたのである。

 低栄養による、そういう弊害がなぜ起こるのか。「胎児の発育は母体の栄養状態、子宮の血流の量、胎盤での物質輸送能力などの要素で決まるが、総体的に胎児が発育するのに必要な要求量よりも胎盤の供給量が少ないときに胎児が低栄養になる」という。そこで、「胎児は生き残るためにいろいろ自分で適応していく。低酸素や低栄養に対しては血流の再配分や代謝調節などで適応し、生き延びようとする。すなわち少ない栄養で生きていけるように倹約型の体質になる」と説明する。ところが、子宮の中では適応できたが、出産後は、粉ミルクをたくさん飲まされるなどして過栄養に陥ってしまう。倹約型にとっては「過適応」になり肥満になると考えられている。

 母体の栄養を3割カットしたモデルマウスの実験では、80%ぐらい小さい体重の仔(こ)が産まれるが、およそ2〜3週間で追いつく。これを「キャッチ・アップ」といい、3週間以降、普通食で飼育すると大人になってから体重差はなくなる。ところが高脂肪食を食べさせると、小さく産まれたマウスは太りやすい体質になる。

 なぜ、太るのか?注目されたのは、脂肪細胞から放出されるレプチンというホルモン。このホルモンは脳内の「視床下部」という中枢に働き、エネルギーの代謝調節の作用がある。こうした研究から、佐川教授は、「新生児期に小さく産まれた子供は、キャッチ・アップの際、レプチンが少し早めに出ることで代謝調節系を変調させ、体重減少が起こりにくくなる。こうした一連のメカニズムが刷り込まれて、太りやすくなる体質の主要な因子になるのだろう」と強調する。

 このマウスは、8週目ぐらいに高血圧になり、インスリンの感受性も悪くなって高血糖、脂質異常に陥る。いわばメタボリックシンドロームのモデル動物でもあるわけだ。生活習慣病は、遺伝的な素因と生活習慣が大きな要因だが、それに胎児期の低栄養の要素が加わり、特にレプチンやエネルギーの代謝系が肥満の方向にプログラムされることによって肥満が起こる、と佐川教授は推測する。

 一方、妊娠中・授乳期・成長期に分けて一貫して普通食を食べたマウスのコントロール群と、妊娠中にのみ低タンパク食を食べた群では、後者から産まれた仔の平均寿命が約200日短縮。逆に授乳期のみ低タンパクだと、コントロール群よりも長生きした。つまり授乳期に太らせすぎないことが寿命の延長につながったらしい。人でも、小さく産まれた子供は、一歳ぐらいになると、レプチンの量が多くなっているという。佐川教授は「『小さく産まれる』ことだけではなく『大きく育てる』にも問題があるといえる。個体には適切な大きさがあって必要以上に大きくすることも避けるべきだ」と語っている。

 国内の複数の疫学研究では、やせすぎの女性は標準体重の女性より、約2倍の確率で低出生体重児が産まれやすいことが立証されている。実際、わが国の出生体重は、25年前3.2キロの平均体重だったのが、2005年には3キロに減った。さらに今では、2,500グラム未満の新生児が10%近くにもなる。メタボの肥満対策と並んで、若い女性のやせすぎ対策も喫緊の課題といえよう。

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■やせている女性を美しいと感じてしまう社会風潮に問題

 大阪樟蔭女子大学人間科学部の甲村弘子教授は「やせすぎ」が引き起こす月経異常と骨量低下について報告した。まず、「やせすぎ」の傾向は、20、30代の若い女性が年々強くなっている。特に20代の女性は今や5人に1人が、やせすぎの基準となるBMI18.5未満、という。

 甲村教授は「やせている女性を美しいと感じてしまう社会風潮も大きな問題」と指摘する。体重と女性ホルモン(エストロゲン)は密接な関係にあり、性ホルモンが正常に分泌されるには、適量の体脂肪が必要だ。体重が減少すると、中枢(視床下部)からの性腺刺激ホルモンの分泌が減少して排卵できなくなり、月経が止まる。その後、骨量が低下し、子宮が萎縮してしまう。自然に月経が回復するには、標準体重の85%以上に回復させることが最優先という。

 日本産科婦人科学会の調査でも、思春期の無月経要因として、「ダイエットによる体重減少」が約半数を占めている。骨量については、初経後2年ぐらいで急激に増加し、閉経後に低下する。だから、思春期に骨量をできるだけ高くし、最大骨量を上げておくことが将来の骨粗鬆症を予防する大きなポイントという。「若い時期のやせすぎと無月経によって、骨量増加が妨げられると、低骨量のままとなり、後から取り返すことは難しい」と甲村教授は警告している。

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■摂食障害、目立つ日本の増加傾向

 厚労省・中枢性摂食異常症調査研究班の班員3人もそれぞれの立場から語った。政策研究大学院大学の鈴木眞理教授は、「知ってほしい日本の摂食障害の現状」のテーマで講演した。

 摂食障害には、大きく分けて、やせていて月経がない「拒食症」と、過食発作があってもやせていない「大食症」。拒食症の中でも、食べる量の少ない「制限型」と、飢餓の反動で過食が出現し、自己嘔吐(おうと)や下剤の乱用でやせている「むちゃぐい/排出型」がある。

 日本では増加の一途をたどり、最近は低年齢化とともに慢性化した中高年患者も増えている。1980年から10年ごとに女子中高大生を調査したところ、3分の1近くが「おかしな食べ方」をし、もはや、やせすぎなのに「やせ願望」の人が4倍にも増えた。こういう人たちが摂食障害の予備群になり得るし、拒食症の頻度は、200〜600人に1人という数値が出ているが、実数はもっと多いとみられる。

 鈴木教授は「ストレス病。まじめできちょうめんなど、ストレスをためやすい人が対処能力を超えたときに発病する」と病態を説明する。「プレッシャーを取り除くことからはじめ、ストレスを適切に、かつ合理的に対処すること、そのために自己主張など社会技能の練習も必要」と語った。

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■食欲亢進に期待「グレリン」

 京都大学医学部附属病院探索医療センターの赤水尚史教授は、摂食障害を加療する「新しい治療薬としてのグレリン」について報告した。

 標準体重が65%以下になると、消化機能障害があり、摂食による体重増加は困難になる。

 薬物療法で期待されるのは、国立循環器病センター研究所の寒川賢治所長らが胃から発見したペプチドホルモンの「グレリン」だ。摂食中枢に働き、食欲亢進などの作用がある。ラットで実験したところ、1日の摂食量、体重とも増えた。ヒトでも、グレリンの量に応じて空腹感などが増してくることが分かった。

 血中のグレリン濃度も、食前に上がり、食後に下がる。やせている摂食障害の患者は濃度が高く、グレリンを渇望していることも分かった。グレリンの臨床応用では、赤水教授らが消化管不全の患者を対象にグレリンを投与したところ、1日の摂食量が30%増え、有意に空腹感も増強する結果となり、グレリンの有効が示された。

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■栄養不足、性ホルモンの分泌にも関係

 国立成育医療センター内分泌・代謝科の堀川玲子医長は、「骨粗鬆症・低身長などの合併症」について発表した。子供は、心も体も一緒に成長、成熟していく。乳幼児期から成長期の最後までを通して大切なのは栄養素。次いで小児期には成長ホルモン、そして思春期には、性ホルモンという3つが、それぞれの時期に必要だ。

 思春期では、骨密度がピークになるが、やせ願望で栄養が足りないと、性ホルモンなどの分泌量にも作用して骨密度がやわになり、身長も伸びなくなる。怖いのは、そのまま低体重が続けば、成長障害が不可逆的(回復できない)になってしまうこと。「拒食症」で急激に体重が減る前に成長障害が起こっている人がかなりいる。母子手帳などに記載されている成長曲線をきちんとつけることによって、摂食障害を早期に発見できるのではないか、と指摘する。

(2008/10/08)


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