■政府サポート、知識普及に驚きの声
激増する糖尿病。肥満が大きな原因でありながらも、日本人やアジア人は小太りでも容易に糖尿病になってしまう特徴を持っている。糖尿病は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)とも連動し、その発症リスクも跳ね上がる。重要なのは予防対策。予備群の段階から生活習慣を改善することが肝心だ。日本糖尿病学会理事長で東京大学医学部教授の門脇孝氏は、「メタボ撲滅の国民運動は世界でも高い評価を受けている」と語る。
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---糖尿病増加が止まらない
最近のデータでは、患者890万人、予備群が1,320万人で合わせて2,210万人という状態です。5年前の調査から約500万人増えたことになります。現在、40歳以上の3人に1人が糖尿病か予備群であって、この50年間に30倍以上も増えたといわれているのです。
その原因を探ると、日本人やアジア人は農耕民族でもともと血糖値を下げるインスリンをあまり必要としない生活を送ってきたのに対し、欧米人は牧畜民族で何千年も前から肉食だったのでインスリンをよく分泌する体質を獲得してきた。日本人やアジア人は、この数十年の間に脂肪の摂取が数倍になったにもかかわらずインスリンの分泌が追いつかないので、糖尿病が激増していると考えられます。
---日本人の特徴は
日本人やアジア人の糖尿病の特徴は、小太りでも容易に糖尿病になってしまう。ですから、少しの内臓脂肪蓄積でもできるだけ早く見つけて予防しないといけない。最近、日本人の中で、ある種の遺伝子を持っているタイプの人がインスリン分泌が低く糖尿病になりやすいことが明らかになってきた。そして、日本人の数十%の人がそのタイプを占めるという衝撃的な事実がわかってきたのです。
---メタボリックシンドロームとの関係は
肥満が糖尿病の大きな原因になっていることは確かなことです。と同時に、肥満は中性脂肪の数値が高まるなどして脂質異常となり、また、血圧異常も来すことがよく知られています。診療経験でも、そういう糖尿病を起こす前の予備群の段階から脂質・血圧異常を合併しているケースが非常に多くなっているという印象を持っています。
---具体的にはどのようなメカニズムですか
皮下脂肪をためられないというのが、1つの出発点。女性の場合、女性ホルモンのエストロゲンが豊富にあり、余剰なエネルギーは皮下脂肪としてためるので内臓脂肪の蓄積は少ない。しかし、男性はエストロゲンが少なく、閉経後の女性とともに皮下脂肪をためられず、余剰なエネルギーは、容易に内臓脂肪として蓄積します。
それに加えて、日本人やアジア人は、白人に比べて厳しく体の中にエネルギー消費を抑える倹約遺伝子、節約遺伝子体質を大部分の人が持っており、内臓脂肪として蓄積されやすい。内臓の周囲の脂肪の蓄積が限界に達すると、遊離脂肪酸として門脈を通じて肝臓や筋肉にたまる。これでインスリンの働きが阻害され、メタボが起こるのです。もうひとつ、皮下脂肪や内臓脂肪からは、「アディポネクチン」というホルモン物質が出ていて、肝臓や筋肉にたまりそうな脂肪を燃やすなどして糖尿病を防いでいるが、内臓脂肪が過剰に蓄積するとアディポネクチンの出が悪くなりメタボになるのです。
---予防対策となると
基本的には、糖尿病の発症の川上(原因)となる生活習慣を改善すること。川下(結果)が心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化疾患、腎障害、神経障害であり、この川上から川下までの途切れない対策が肝心で、もっとも力を入れるべきは、予防なのです。今の厚生労働省の「特定健診・保健指導」での腹囲の基準(男性85センチ、女性90センチ)については、これは長年のCTスキャンの内臓脂肪面積から割り出した一定の科学的根拠を持ったデータだと思います。ただ、女性に関しては、閉経後は急激に内臓脂肪がたまりやすい体質になるので、80センチぐらいから黄信号として気をつけておいた方がよいのでは。
---「サンサン運動」も
日本肥満学会が提唱する、「ウエスト3センチ、体重3キロ減」運動は、非常に大事です。たまりやすいけれども運動などにより、燃えやすいのが内臓脂肪。わが国の疫学的な調査研究でもおおむね体重を2、3キロ減らすと、糖尿病を20〜30%にまで減らすことができるのがわかってきています。
---WHO(世界保健機関)の会議でも診断基準が問題となりました
結論として、従来のBMI(体格指数=肥満値欧米30、日本・アジア25)だけでは生活習慣病予防には不十分なことなどから、BMIと腹囲を世界中で活用することが決まりました。
ただ、全世界共通の腹囲でという意見もあり、これだと、100・90だったりする可能性もあったので、私は、日本人や東アジア人は少しの内臓脂肪蓄積でも生活習慣病を起こしやすいことを主張し、アジア人などのハイリスク▽顕著に肥満しなければ起こらない白人のローリスク▽その中間型のリスク?の3つに分けて設定するよう働きかけたわけです。最終的に確定してはいませんが、アジア人は、欧米人に比べ低い数値の段階で診断しようというところでは合意に至りました。その中で、日本では腹囲に代表されるように、メタボについての知識が非常に普及し、政府がサポートする形で、生活習慣病予防の国民運動を展開していることを紹介したところ、非常に驚き、「日本はすでにメタボ・腹囲先進国」と高い評価を受けました。実際に政府が中心になり国民運動を進めている以上、WHOとしても無視できないという意見も賛同を得て、日本の主張が通ったという経緯もあるのです。

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