メタボで「脳卒中リスク2倍」診断基準と合致する危険因子(2/2)
2009.03.03

“前触れ”に注意を 急にろれつが回らない、はしを落とす…

---生活習慣改善など予防対策が肝心

 今回、新たにメタボの概念も取り入れました。脳卒中の予防と高血圧の関係についても、「いつまでも元気でいるために」を目標に、発症予防と、一度起こしてしまった人との治療法とを分けて示すこととしています。発症予防のためとはいえ、例えば、高血圧の方に、いきなり薬を出すのではなく、生活習慣の改善や塩分の制限、さらに合併する糖尿病、脂質異常症、肥満などのリスクをまず払拭してそれと並行して血圧を下げていくという戦略が必要です。高血圧治療ガイドラインでは、慢性期降圧基準を140/90未満としています。ただ、血圧を下げてだるくなったり、手足が動きにくくなったりした場合は、頸(くび)の血管の狭窄が原因である可能性もありますので、超音波やMRA(磁気共鳴血管撮影)を使ってよく確認しておくことも必要です。

---頸の血管狭窄とは

 「内頸動脈狭窄」という状態です。最近はこの頸の血管の動脈硬化で血管が細くなっている人をときに見かけます。アテローム血栓性脳梗塞のひとつの型で今、日本人で非常に増えてきています。こういう患者さんでは、血圧が高いから血液が十分脳に送られている状態といえますので、急に血圧を大幅に下げると脳に行く血液が少なくなってしまうのです。専門家とよく相談してください。

---脳卒中の前触れについて

 前触れは、脳出血にはありませんが、脳梗塞の前触れには、「一過性脳虚血発作」というものがあります。例えば急にろれつが回らなくなる、手が動かなくなる、はしをぽろっと落とす?など脳卒中のような症状が起きても大体数分以内に完全に消えてしまう状態をいいます。気のせいだと見逃してしまうケースが多いのです。しかし、近い将来大きな脳梗塞を起こす確率が高いのでそういう怪しいサインに感づいたら、気のせいだと笑われてもいいから専門の医師に診てもらうことですね。

---治療対策について

 高血圧や糖尿病、あるいは悪玉のコレステロールが怖いのは、最終的に脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすからです。そうした脳梗塞の発症予防に有効な降圧薬(Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARBなど)、糖尿病薬、コレステロール低下薬にはさまざまな薬物があります。それぞれ特徴があるのでかかりつけ医とよく相談してください。

 それでも不幸にして脳梗塞が起こってしまったときには、4年前にわが国でも保険適用になった「t-PA」という、抗血栓薬があり、発症3時間内なら劇的な効果があります。しかし、これも出血などで使えない場合も多く、リスクを伴うので注意しなければいけません。脳卒中の治療は専門家にまかせるべきです。私どもは使用方法についても全国で170回以上セミナーを催し啓発に努めましたが、「t-PA」は正しい使い方をすれば有効な薬です。ただし、「t-PA」以外にも有効な薬がいくつかあり、また、はた目には脳梗塞か脳出血かわかりませんから、脳卒中の超急性期の患者さんは、ともかく急ぎ専門の病院に行くことが必要です。どんな病型かで適切な治療法も変わってくるからです。今後は、緊急病院だけでなく、リハビリのできる慢性期病院の充実も必要でしょう。

---再発の予防は

 再発の予防としては、脳出血には血圧のコントロール、脳梗塞には血圧、糖尿病、悪玉コレステロールなどの治療が必要です。また、アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞には、抗血小板薬、心房細動などによる心原性脳塞栓症には抗凝固薬などが使われます。臨床現場では病型によって再発予防薬も使い分けているのです。

---今もって、「寝たきり率」がナンバーワン

 すべての脳卒中は、すっきりと治るわけではありません。症状は消えても脳の中の梗塞や出血は完全に跡形もなく消え去るものではないからです。脳卒中後は、まひばかりでなく、めまいや、やる気がなくなるとか、なんらかの後遺症が残ることもありますが、脳卒中後も今まで通り第一線で働いていらっしゃる方々が大勢おられます。統計では、亡くなる方は、10人中1人弱、寝たきりが約2人、あとの方々は社会復帰したり、後遺症を持ちながらも頑張って日常生活を送っておられます。脳卒中になったからといって落ち込むのが一番よくないですね。病気に負けない、という気持ちを自分も家族も持つことが大切です。最後に、もし脳卒中にかかりやすい因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、遺伝など)をお持ちの方は、ご家族ともども緊急の場合どこの専門病院に行くか、前もって考えておかれたらよいのではないでしょうか。

                   ◇

【プロフィル】篠原幸人

 しのはら・ゆきと 慶應義塾大学医学部卒業。昭和58年東海大学医学部教授、同付属東京病院院長など経て平成18年から現職。日本脳卒中学会理事長。その他多くの学会理事、名誉会員など。

(産経新聞 2009/03/03)


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