糖尿病患者は、通常の2、3倍も歯周病にかかりやすく、血糖コントロールが悪化するばかりか、心臓・腎臓病のリスクも高くなる。1月末、大阪で行われた「食事・栄養と糖尿病、口腔保健推進セミナー」(主催・サンスター歯科保健振興財団、ハーバード大学医学部付属ジョスリン糖尿病センター)の報告で、こうした知見が次々と明らかにされ、注目を集めている。以前から、歯周病は糖尿病の合併症の一つであり、全身疾患である糖尿病との因果関係が指摘されていたが、今回のセミナーを契機に歯周病治療・口腔保健も新たな展開を迎えそうだ。
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■高まる心臓・腎臓病のリスク
米ボストン大学ゴールドマン校歯科医学部のトーマス・ヴァンダイク教授は、「糖尿病と歯周病の関係」と題して講演した。
ヴァンダイク教授は、糖尿病の罹患率が高いことで知られるアリゾナ州のピマ族インディアン約2,000人を対象に、1980、90年代から含めて行われたいくつかの疫学研究を報告した。最初の研究は、レントゲン写真によって歯周病にかかった人の歯槽骨の喪失や歯肉などの歯周組織の検査を3カ月ごとに1年間行った結果、糖尿病患者の場合は、歯周組織の喪失度が激しく、さらに長期研究を続けたところ、同じ患者さんでも3年後には歯槽骨がなくなっていたりするなど、骨の変化が著しかった。
糖尿病患者とそうでない健常者との場合とで歯周病の発症率の相対リスクを調べたところ、糖尿病患者は75.7%、健常者は38.9%となり、その差1.95倍となることが分かった。
こうした糖尿病と歯周病との関連性を追った研究は米国だけでも五十数件にのぼり、その大半で有意なエビデンス(科学的証拠)が得られており、ヴァンダイク教授は「全体的に見ても相関関係があることは確かで、糖尿病患者は通常の2、3倍歯周病に罹患しやすい」と述べている。
血糖コントロールとの関係については、歯周炎の重篤度(細菌が増強する歯周ポケットの障害度合い)ごとに調べたところ、歯周病の重篤度が高い人ほど、血糖コントロールが悪くなりやすいことが分かった。もうひとつの2年間の研究でも、歯周炎なしのグループに比べ、歯周炎ありのグループは、3倍以上(11%:37%)も血糖コントロールが悪化している人が多いことが明らかになっている。
そして、糖尿病と歯周病を併発している人は、心臓病や腎臓病にかかりやすいかどうかについても検討している。これも2型糖尿病のピマ族インディアン766人を対象に12年間追跡調査したところ、総死亡では、歯周病を併発している患者は、併発していない患者に比べ倍近く死亡率が高く、一番死因として差が大きく出てきたのは、心筋梗塞などの心臓疾患だった(歯周病でない人の2.7倍)。
それ以上に上回っていたのが糖尿病性腎症。心・腎疾患の併発時の死亡率も統計的に有意に大きかった。だから、歯周病は、糖尿病患者においては、コントロールせず治療しないまま放っておくと心臓病、腎臓病につながり死亡率を高める可能性が示された。
ヴァンダイク教授は、まず、こう結論づける。「歯周病というのは、糖尿病の感染合併症といえる」。その前提として、歯周病そのものは感染性の疾患であり、バクテリアが原因となって炎症が起こる。一つの考え方として、糖尿病と歯周病は炎症反応に関連しているのではないかともいわれており、糖尿病の血糖管理が不十分だと、生体の防御反応や治癒機能が衰え、生体を過剰な炎症状態に導くことによって、歯周組織の破壊が進むのではないかとも説明している。
さて、糖尿病によって歯周病にかかりやすくなるのか、あるいはその逆なのか、そういう疑問も出てくる。これに対してヴァンダイク教授は、「現在のデータではっきりしていることは、炎症をコントロールすれば、歯周病の進行を抑え、改善されるなど、いい結果をもたらすということです。全身性の糖尿病、脂肪肝にしても、そういえます。炎症性のサイトカイン(生理活性物質)が血中に漏れることによって炎症が高まり、糖尿病が悪化していくかどうか、私たちは研究中です」と話す。
最後に「歯周病を予防、また、治療することは歯の機能維持に役立つ。そうすれば食物繊維が豊富で炭水化物の少ない硬い食事なども食べることができます。糖尿病患者の歯周病を管理することは血糖コントロールをより良好に維持することの助けになるかもしれない」と語った。
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■歯茎の炎症性サイトカインが全身にも影響
歯周病に侵された歯の再生医療にも取り組んでいる大阪大学大学院歯学研究科の村上伸也教授は、「日本の歯周病治療の現状」などをめぐって講演した。
国民健康づくり運動の一環として立ち上がった「健康日本21」でも口腔領域では唯一、歯周病が取り上げられ、日本を含め世界中で大人の8割近くが罹患状態にあることを指摘。歯周病には大きく分けて、歯茎や歯槽骨が慢性炎症的に破壊されていく「慢性歯周炎」と、若いころから急速に進行する「侵襲性歯周炎」の2通りのタイプが存在することを報告した。
歯周病の原因としてプラークに付着する歯周病原性細菌がもととなる感染症であっても、それだけで発症・進行が決められるものではなく、生活習慣や体質などが加味されて、人体の抵抗力が減弱する何らかの全身状態になると、歯肉炎から歯周炎へと移行し歯周病が発症・進行しやすくなることを強調した。
村上教授は「歯を支えている歯周組織の健康も免疫の仕組みで守られていることを忘れがちです。また逆に、細菌が原因の炎症や免疫反応が何十年も続くと、ときに非常に過剰に反応して結果的に歯周組織を破壊していくという研究も最近、熱心に行われています」と語る。
例えば、歯茎が炎症を起こすと、TNF-αやIL-1などというさまざまなサイトカインが多量に分泌されてくることが村上教授らの研究でも明らかになっているが、歯周病治療で炎症が治まると、サイトカインの発現は格段に下がってくる。こうした炎症性のサイトカインが持続的に産生されると、歯周組織から体中に循環して全身に影響を及ぼす可能性もあるとしている。
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日米からさまざまな報告
■ウィリアム・C・シュー氏 高い日系米人の糖尿病発症率
このセミナーでは、糖尿病について世界的に権威のあるハーバード大学医学部付属ジョスリン糖尿病センターのジョージ・L・キング教授が開会の辞を述べたあと、同センターのウィリアム・C・シュー氏が、「世界的に増加する糖尿病医療の現状」、登録栄養士、糖尿病療法指導士のソフィア・チェン氏が「糖尿病・口腔疾患の予防と治療における栄養」、また日本側からは、順天堂大学大学院の河盛隆造教授、滋賀医科大学付属病院長の柏木厚典氏らが講演を行った。
シュー氏は、米国で特にアジア系米人の2型糖尿病の発症率が高いことに触れ「軽度のβ細胞機能不全でもインスリン抵抗性が進展してしまう日系、アジア人の遺伝的素因が、肥満などを呈する環境の変化によって顕在化してくると考えられる」と説明した。すでにシアトルの日系2世調査では、糖尿病が16〜20%の発症率を示し、3世ではさらに増加。中心性肥満、腹部肥満といった指標の方が単にBMI(体格指数)よりもインスリン抵抗性糖尿病の発症を予測できることを明らかにした。
■ソフィア・チェン氏 米国では60〜70%が過体重状態
一方、チェン氏は、米国においては60〜70%が過体重、33〜35%が肥満状況とし、日本も追いつきつつあると警告している。昔より総カロリーの摂取量は減っているが、カロリーがそれほどいらない生活になってエネルギーがアンバランスになってきた結果、糖尿病も増えてきたと説明する。
80%の参加者が体重減に成功した日本の(長野県)佐久プログラムの例も取り上げ、減量を成功させる秘訣として、食事を楽しむ、リバウンドを怖がらない、炭水化物の量に気をつけて、記録を取る、など10カ条を提案している。
また、口腔保健については、十分な歯がないと健康な食生活も営めないとしたうえで、「不適切な歯の管理をしている人は軟らかいものを食べたがる。それは脂質の多いものは軟らかくて食べやすいから」と、チェン氏の研究からも明確になり、その類の食物は単糖類が多くグルコース値にも影響を与えることから糖尿病には決してよくないこと。また、栄養状態が悪いと、唾液の量も減り、口腔内のバクテリアが繁殖しやすくなると指摘している。
歯周病の人への栄養介入として、一番手に栄養価のあるバランスの取れた食事。砂糖や、食べかすが残りやすい粘着性の食品を避け、水をたくさん飲む、さらに間食は取らず、常に血糖チェックすることなどを挙げている。

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