「急性心筋梗塞」に対する治療法として、心臓まで血管内に細いワイヤを通し、血栓コレステロールなどで詰まった動脈硬化の病変部を広げる「冠動脈インターベンション(PCI)」が注目を浴びている。この治療法のおかげで、患者の死亡率が劇的に下がったためで、手技に優れたわが国の独壇場でもある。わが国でもメタボリックシンドロームや高コレステロールの状況の改善が遅れる中で、心筋梗塞などの心血管病が増え続けている。冠動脈インターベンションの第一人者である湘南鎌倉総合病院心臓センター循環器科部長の齋藤滋氏は、「このままだといずれ、心筋梗塞の患者さんが10倍ぐらい増えることは間違いない」と指摘する。
■死亡率、劇的に下がる
---心筋梗塞が増えているそうですね
厚生労働省の死亡統計では、すでに1994年に心筋梗塞などの心臓死が、脳卒中などの脳血管障害による死亡を上回りました。1960年代から脳血管障害は急速に減少してきて、1984年には心臓死とクロスして下がってきたのです。日本人の死因で一番多いのは、がんですが、さまざまな臓器に発症する病気であって、1種類の臓器に絞ると心臓死が一番多いのです。
---なぜ、そういう逆転が起きたのか
わが国では、かなり前から「脳卒中撲滅」の声が高く、脳卒中、脳出血などの大きな原因となる塩分制限による血圧低下の運動は活発で、それが功を奏してきたのでしょう。しかし、コレステロールの元になる脂肪摂取の制限は、はかどらずむしろ増加してきた。コレステロールが低くなると、がんや脳出血になるなどというネガティブキャンペーンもあったりして実効あるコレステロール制限の運動は進んでいなかったと思われます。逆に、心筋梗塞による死亡数が脳血管障害よりもはるかに多かった米国では、太平洋戦争に勝利してから、「次の戦争は心臓病だ」と大統領も宣言するほど国を挙げて取り組み、格段に減らすことに成功しているわけです。わが国の脂肪摂取やコレステロールの状況は、米国と比べ年々増え続けているのが現状です。従って死因に関しても、わが国は、心筋梗塞の多い欧米が歩んできた道の30〜40年後を追いかけているような状況なのです。その証拠に今や、小学1年生のコレステロールのレベルが、米国人の同年齢の子供たちに比べ逆転してしまったというデータもあるのです。
---心筋梗塞など心血管疾患を起こす原因は
ひとことで言えば、冠動脈の局所で動脈硬化が起こるから。コレステロールが血管内にたくさんたまると、それを処理するためいろいろな炎症細胞が集まり、取り除けずに炎症細胞の死骸(しがい)などが集まって動脈硬化の塊であるプラークができます。それが大きくなって表面が破裂して血栓ができ血管が詰まってしまう。それが心筋梗塞です。
基本的には加齢に伴う変化ですが、米国の有名な疫学研究「フラミンガムスタディー」では、そうした冠動脈の危険因子として糖尿病・コレステロール・高血圧・高尿酸・家族歴・喫煙などが挙げられ、これらが複数重なると心血管疾患で亡くなるリスクが4〜5倍に増えることも分かっています。また、わが国発の概念として、内臓脂肪の蓄積を本質とする「メタボリックシンドローム」という概念が出てきましたが、これは内臓脂肪が増えると善玉のホルモン分泌が少なくなり悪玉のホルモンが増加して動脈硬化を促進させることも明らかになっています。
■詰まった血栓を取り除く
---治療法の「冠動脈インターベンション(PCI)」とは
基本的には切らないで体内を治療する療法です。多くの場合カテーテルという管を使って動脈内の病変を探る。足の付け根やひじ、手首の動脈からカテーテルを差し込んで心臓の血管まで入れて、さらにその管の中に外径0.036ミリぐらいの髪の毛よりも細いガイドワイヤを入れて血管内の狭くなった部分を通過させるわけです。
---非常に繊細な手技ですね
レントゲンを見ながら導いていくのですが、極細のワイヤを血管内で操作するので熟練した技術がいります。血栓で血管が完全に詰まっている場合には、ともかくワイヤを通すこと。通過したあとに今度はワイヤにかぶせて風船を入れて膨らませ、風船にステントという金属状の網をかぶせて留置するのです。ステントには金属だけのものと、血栓溶解剤が塗ってある薬剤溶出型ステントがあります。最近はカルシウムが沈着して硬くなった病変には、高速回転する金属球を先端に取り付けて血栓を壊し通過させるロータブレーターも登場しています。どういうインターベンションにするかは、病態や血管の状況によって決めていくのです。
---ごく短時間で判断しなければならない
例えば先週も、胸が痛いと来られた患者さんは、おかしいと分かったのですぐ冠動脈インターベンションをやり、再開通して30分ほどで治療を終わらせています。外科医は、基本的に全身麻酔下の手術なので判断に多少余裕がありますが、われわれは心臓が動いたまま局所麻酔をしただけでインターベンションを行います。遅くなり血管が詰まったままの状態が続けば、心臓が壊死(えし)してしまうので、すばやい決断、すばやい治療が必須です。外来でここ1、2カ月ちょっと胸がおかしいといって来院される場合は、心電図やCT検査、薬剤投与などの余裕がありますが、「急性心筋梗塞」などの切迫した状態では、そういう検査にかける時間的な余裕もないわけです。
---早く処置ができるところというと
急性心筋梗塞の自覚症状があったら、カテーテルのできる場所、つまり病院内の「カテーテル検査室」で診療を受けるのが一番です。そういう検査室ではインターベンションができる態勢ができており、私どもの病院でも心臓や足なども含めてのカテーテル検査・治療の患者さんは年間約5,000人に上ります。そのうち心臓の冠動脈インターベンションは、年間1,100人になるのです。
心臓カテーテル検査は、1929年に米国で初めて手がけられ、その後ステントを植え込むなどの冠動脈インターベンションに急速に発展してきました。私は1983年から、日本でも先駆的に行ってきましたが、手技の難しさもあって日本人の独壇場ともいえます。今でも海外へライブで普及に出かけることが多いのです。かつては足の付け根からのカテーテル導入が多かったのですが最近は、手首の橈骨(とうこつ)の間に走っている動脈から導入することがわが国では主流になっています。太い足の付け根などの動脈より出血などの合併症の恐れは少ないですが、3ミリという細い動脈なので技術的に手技は一番難しい。患者さんにしてみれば、バンドでとめているだけなので、カテーテルを抜いたあとは自由に動けるメリットがあります。
---冠動脈一本詰まっても重大な影響が
冠動脈は、図のように心臓の表面を冠のような形で覆っており、例えば、左冠動脈にあって心臓の前面を走る「前下行枝(ぜんかこうし)」は、その太さが大体3.5〜2.5ミリぐらいで、ちょっとした動脈硬化でも血管径が細くなり、一本でも詰まってしまえば大きな影響があります。血液が流れなくなれば虚血状態で酸素や栄養も途絶えて心臓の筋肉が腐ってしまう、つまり、壊死状態になるので急性心筋梗塞は、すみやかに適切な治療を施さないといけない。人間の体の中で、一番動脈硬化が起こりやすいのは腎臓の動脈。次いで心臓、脳の動脈となりますが、脳出血など血管の破綻で起きる脳の動脈障害と違って、心臓の動脈は、血栓ができて詰まってしまうことが大問題なのです。
---心房細動でも血栓が飛ぶ
心房細動で左心房がぷるぷる震えて収縮しなくなるので血液がよどみ血栓ができる状態になるが、本来の動脈硬化とは違います。そのうち血栓がはがれて心臓の中を通って7割方の確率で脳に飛んでいきます。これは「塞栓症」といって、元巨人監督の長嶋茂雄さんの例が当てはまりますが、心筋梗塞や狭心症は、どこからか飛んでくるのではなくて局所に偏在して起こる「血栓症」です。血栓溶解剤などさまざまな薬剤が使われてきましたが、結局、現在は冠動脈インターベンションで通過させることが一番有効だろうといわれているのです。

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