第1回メタボリックシンドローム撲滅委員会 (2/2)
2009.05.19

■「メタボ先進国」、国際会議でも評価
 <東京大学大学院教授・日本糖尿病学会理事長 門脇孝氏>

≪腹囲、世界各国で活用へ≫

 厚生労働省の最新の調査によると、糖尿病患者数は890万人、予備群を入れると2,210万人で、この10年間に糖尿病、予備軍合わせて500万人以上増加するという残念な状況です。その最大の原因が肥満。特に内臓脂肪の蓄積を有するメタボリックシンドロームが増加していることだと考えています。

 実際に日本のデータでも、メタボの人はそうでない人に比べて糖尿病のリスクが約5倍も高く、福岡県・久山町研究のデータでは、メタボから糖尿病に移行した人は脳卒中や心筋梗塞のリスクが4倍余り高いことが分かっています。

 最近、世界保健機関(WHO)や国際糖尿病連合(IDF)などの会議で、糖尿病とともに、メタボや腹囲の問題について議論をすることがあります。どの会議でも、日本はメタボ先進国といわれます。それは、メタボの疾患概念の形成をはじめ、メタボ対策という点でも先進国と一致して認められているからだと思います。

 何よりも特定健診・保健指導を40歳から74歳までの男女5,600万人が受けることが建前の国を挙げての取り組みだと説明すると、「信じられないぐらいすばらしい取り組みだ」との評価を得ています。

 昨年12月にジュネーブのWHOで腹囲に関する会合がありました。WHOは世界に対していろいろな健康障害の予測指標としてBMI(体格指数、体重を身長の2乗で割る)を強調してきましたが、その会合では、BMIに加えて腹囲を測定することについての議論が行われました。これまでの世界的なエビデンスをすべて検討したところ、BMIにはない腹囲独自の健康障害との関連があるということでした。6カ月以内に発表されるでしょうが、腹囲を世界各国で活用していこう。それも、世界の統一基準ではなくて、日本人のように比較的少ない腹囲で糖尿病や健康障害を起こしやすい地域では、欧米より少ない腹囲で対応することになりそうです。

 一方で、米国では生活習慣への介入がいろいろな理由でうまく進んでいないことから、メタボに対して薬で対応しようという残念な動きが強まっています。米国のメタボの基準は、国際糖尿病連合や日本の基準と違って腹囲を5項目の1つにしかとらえていない。そういった動きに一部のヨーロッパの国が同調しようとしているのは大変残念です。それがどうなろうと日本は内臓脂肪や腹囲を中心にした疾患概念を堅持し、診断の基本的なコンセプトを変えるべきではないと思います。この運動は、メタボを撲滅することが目標であることを改めてかみしめる必要があります。特定健診の仕組みを利用し、兵庫県尼崎市のような先進例に学んで、国全体としても生活習慣病を減らすとの結果をきちんと出すことができるかどうか。世界からの評価の決定的な問題点になるので、あらゆる努力を傾ける必要があると思います。

 最後に、具体的な運動の取り組みですが、昨年、私自身が糖尿病学会の会長になったときに、会場のホテルなどで360キロカロリーのフレンチのフルコースをメニューに入れていただきました。そういったおいしくてヘルシーなメニューを広めていくことが非常に重要だと思っています。メタボ撲滅キャンペーンであれば、このような試みを運動として持続的に取り入れることも可能と思うので検討、課題にのったらいいなと思います。


                   ◇


■家庭での血圧測定が特に重要
 <札幌医科大学教授・日本高血圧学会理事長 島本和明氏>

≪高血圧による心臓病リスクに、メタボ取り入れ≫

 厚生労働省の統計解析によると、高血圧の人は3,970万人と最も多い生活習慣病といえますが、メタボリックシンドロームの対象である正常高値(130〜85mmHg)以上は5,500万人です。乳児を入れて2人に1人に近い人数になっています。メタボを構成する4つの基礎疾患の中でも、頻度という点では非常に重要視されている病気です。

 ことし1月16日に日本高血圧学会から新しいガイドライン(JSH2009)が発表されました。メタボ関連については、大きく変わったのが、心臓血管系の疾患の危険因子として初めてメタボを入れたことです。

 ただ、メタボは、それ自体の定義がかなり複雑です。診断基準の4つのリスクのうち腹部肥満は当然必須で、血圧は高血圧か、正常高値の数値が高めである。

 問題はほかの2つのリスクで、「血糖高値」と「脂質異常症」です。1つだけあった場合、リスクは3つで、これは中等リスクになるけれど、全部そろうと4つで高リスクになってしまう。あるいは、糖尿病があるとリスクが合計3つでも高リスクになってしまう。そこで血圧に基づいて低リスクから高リスクまで層別化すると、ガイドラインでは表(診察室血圧に基づいた脳心血管リスク層別化)のように、まず、I度高血圧(140〜159mmHg)、II度高血圧(160〜179mmHg)、III度高血圧(180mmHg以上)と血圧の高さで分けます。次いで、リスク第一層(危険因子がない)、第二層(糖尿病以外の1〜2個の危険因子)、第三層(糖尿病、臓器障害などのどれか、あるいは3つ以上のリスク)を縦軸にとり、これを組み合わせてリスクを判定します。

 メタボをどの層に入れるかは論議がありました。そこで予防的メタボということで、「腹部肥満」「高血圧」と、「脂質異常」「血糖高値」のどちらかの計3つであれば第二層、リスクを4つ持っていれば第三層と高リスクにしています。

 ここで重要なことは、たとえば高血圧の一歩手前の正常高値血圧の人でもリスクが非常に高い場合には投薬治療をすると変えた点です。糖尿病のない場合、正常高値の場合、リスクが全部で3つにとどまっている予防的メタボの場合には生活習慣の是正のみです。しかし、すべてリスクがそろった場合には薬を使うこともできます。これが、メタボを合併した高血圧の人に対する治療のガイドラインになります。

 また、メタボとの関連では、特定健診・保健指導への提言として、特に受診勧奨について、学会としてはかなり時間・スペースを割いて紹介をしています。判定をする医師の参考になるようなもので、血圧が160〜100mmHg以上の場合、糖尿病、腎障害などがある場合は、無条件で受診勧奨にします。

 問題はI度の高血圧で、ほかの危険因子が何もない場合は低リスクになり、薬を使わずに情報提供にしました。ただ、必ず高血圧であることを告げる、生活習慣の改善を自ら行う。家庭で自分で血圧を測って130〜85mmHg以上になれば病院へ行き、翌年は必ず特定健診を必ず受けるように情報提供します。

 さらに、今回は、家庭血圧測定の重要性を強調しました。病院に行くと、多くの人は血圧が上がります。病院の血圧が高くて、家の血圧が正常ならば、「白衣高血圧」で高血圧でない。問題は、病院の血圧が正常で、家の血圧が高いケース。これは、「仮面高血圧」「職場高血圧」といい、本物の高血圧なんです。だから、病院と家庭の血圧が矛盾したときは、すべて家庭の血圧にウエートをおきます。

 今、高血圧の患者の75〜80%はすでに家庭血圧をはかっています。測定は、朝起きて1時間以内と夜寝る前の2回。そして、今回は家庭血圧の高血圧の基準、135〜85mmHgをつくりました。さらに24時間血圧を測定すればこのようになると表にして示しています。家庭血圧の降圧目標も新たに入れています。

(産経新聞 2009/05/19)


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